事業承継、一人で悩んでいませんか?
少子高齢化や働き方の多様化を背景として、中小企業の事業承継は年々ハードルが高くなっています。周囲が後継者探しに苦労している話を聞いて、将来の事業承継に漠然とした不安を抱えている経営者も多いでしょう。
事業承継をスムーズに進めていくためには、まず他の経営者が具体的にどのような課題に直面しているか知ることが有効です。想定できる課題に対してあらかじめ対策方法を知っておけば、安心して事業承継の計画を立てられるでしょう。
今回は現代の経営者の事業承継に関する悩みを網羅的に紹介し、その対策も解説します。
【事業承継の悩みランキング】経営者が抱える5つの共通課題

経営者が抱える事業承継の悩みはさまざまですが、大まかに以下の5つに分類できます。
このなかで、自社で同じ課題が生じることが予測できる方もいるでしょう。しかし他の多くの人が悩んでいる事柄に関しては、その対処方法もさまざまに考え出されています。ここでは一般的な悩みと併せて、対処方法に焦点をあてて解説していきます。
1位 後継者が見つからない・育たない
現代の中小企業経営者を悩ませる最大の問題は、後継者の不在でしょう。
中小企業全体で経営者の高齢化が進むなか、適切な後継者を確保できていない企業の割合は約5割になります。
長年国内の中小企業においては、現経営者の子息など親族内で後継者を見つけるスタイルが一般的でした。
そのため他の事業承継の方法を知らず、親族内に適切な後継者候補がいないと途端に行き詰ってしまうケースが見られます。
事業は株式を有償で譲渡する形で、従業員などに引き継ぐことも可能です。
また自力で後継者候補を見つけられない場合、M&A仲介会社などに相談すれば、M&Aという形で事業を受け継いでくれる企業を見つけてもらえるでしょう。
2位 誰に相談すればいいかわからない
経営者にとって、悩みが生じても気軽に相談できる相手がいないのは、事業承継に限った問題ではないでしょう。
家族は経営の内情に通じてはいませんし、事業承継は従業員など関係者に軽々しく話せる問題ではありません。
特に高齢の経営者は一人で事業承継の悩みを抱え込み、結果的に糸口を見つけられず諦めて廃業を選ぶケースが増えています。
まずは取引のある税理士、会計士、あるいは金融機関の担当者などに相談してみましょう。
事業承継対策では、遅かれ早かれこうした各分野の専門家のサポートを受ける場面が出てきます。
早めに自社が抱える課題について話すことで、一緒に対策を考えてもらえるでしょう。
3位 相続税や贈与税など、税金の負担が重い
事業承継における大きな課題は、相続税や贈与税の重い負担です。
特に中小企業では、経営が順調なほど自社株式の評価額が高騰し、後継者に多額の税金が課されます。
しかし、非上場株式は現金化が難しく、納税資金の確保が困難となり、会社の経営を圧迫しかねません。
この問題の対策として「事業承継税制(特例措置)」があります。
この制度を活用すれば、一定の要件のもとで自社株式にかかる贈与税・相続税の納税が100%猶予され、将来的に免除される可能性があります。
ただし、手続きが複雑で、適用後も長期にわたる要件を満たすことが必要です。
特例措置の適用を受けるための計画提出期限は2026年3月31日と迫っているため、専門家への早期相談が不可欠です。
4位 従業員の雇用や取引先との関係を維持できるか不安
事業承継では、従業員の雇用や取引先との関係といった「見えない資産」の引継ぎが大きな課題です。
従業員は、経営者交代による雇用や待遇への不安から離職するリスクがあります。
また、取引先との関係も経営者個人の信頼で成り立っている場合が多く、関係が途切れると売上減少につながります。
不安を解消するには、従業員には早期の情報開示と雇用条件の明言が、取引先には後継者と現経営者が共に挨拶に伺い、新体制の方針を丁寧に説明することが重要です。
計画的で誠実なコミュニケーションが、円滑な事業承継の鍵となります。
5位 個人保証や債務の引き継ぎ問題
事業承継では、会社の借入金や経営者の個人保証の引き継ぎが大きな壁となります。
後継者は、多額の債務を背負うことで経営の自由度が下がり、倒産時には個人資産を失うリスクを負います。
このため、後継者候補が承継をためらうケースは少なくありません。
対策として、まずは会社の財務状況を改善し、借入金を圧縮することが基本です。
さらに、国が推進する「経営者保証ガイドライン」の活用や、「事業承継特別保証制度」を利用することで、個人保証を解除できる可能性があります。
これらの制度をうまく活用し、金融機関と交渉するには、専門家の支援が不可欠です。
事業承継の悩みを軽減する方法

事業承継にまつわる一般的な課題を知ったところで、次は経営者の方の悩みを軽減するための方法を見ていきましょう。一般的な方法は以下の3つです。
- 事業承継ガイドラインや事業承継マニュアルを活用する
- 悩みに適した専門家に介入依頼をする
- 事業承継の費用負担を軽減できる制度を利用する
中小企業庁では経営者が事業承継を円滑に進められるよう、ガイドラインやマニュアルを策定しています。また民間のサービスで専門家を頼ることも可能です。さらに費用負担を軽減する公的制度もあるので、それぞれについてあらかじめ知っておけば、問題が生じたときも動じずに対処できるでしょう。
事業承継ガイドラインや事業承継マニュアルを活用する
何か不安や疑問が生じたときは、まず中小企業庁のホームページにある事業承継ガイドラインを確認しましょう。事業承継の準備の進め方、従業員や他社へと事業を引き継ぐ場合の注意点、さらには困ったときに頼れる相談先まで記載されています。
また同じく中小企業庁の事業承継マニュアルも活用できます。事業承継ガイドラインの内容のなかでも、事業承継計画の立て方、後継者の育成方法、税負担や資金調達の問題は特に重要です。詳しい手順が記載されています。
ほとんどの経営者にとって事業承継は初めての取り組みです。どのように進めれば良いかというマニュアルを信頼できる情報元から得ることで、事業承継に対する漠然とした不安を取り除くことができるでしょう。
悩みに適した専門家に介入依頼する
適切なアドバイスをしてくれる相談相手がいれば、多くの悩みが解消できるでしょう。事業承継で頼りになるのは、税理士や会計士、あるいは弁護士やM&A仲介会社などのプロフェッショナルです。
すでに取引のある税理士や会計士が存在する場合は、気軽に事業承継の悩みを相談してみましょう。現在こうした士業の専門家は事業承継の相談を受ける機会も増えているので、その経験から有益なアドバイスが期待できます。
ただし事業承継を進めていくなかで、より専門的な知識を要する課題が出てきたときは、その分野に詳しい専門家を選ぶことも大切です。会社法や契約書に関わる問題は弁護士、節税対策は税理士のように、課題ごとに適切な相談相手を選ぶようにしましょう。
事業承継の費用負担を軽減できる制度を利用する
後継者の税負担がハードルとなっている中小企業のため、事業承継税制という制度があることはすでに説明しました。事業承継税制を利用するためには、2026年3月までに各都道府県知事に特例承継計画書を提出して承認を受ける必要があります。企業によってはタイトなスケジュールかもしれませんが、チャレンジするだけの価値はあるでしょう。
2021年度に実施された事業承継・引継ぎ補助金は、2022年度も実施予定です。この補助金を活用すれば、後継者が承継後に経営革新を行う際の資金に補助を受けられます。また再チャレンジのために古い事業を廃業するための費用、事業承継で各専門家のサービスを利用するための費用も補助対象です。
2022年の3月以降に申請受付が開始される予定なので、こまめにチェックしておきましょう。
事業承継の悩みや不安はなるべく早く解消させよう

事業承継の手順やスケジュール、後継者問題など経営者の一般的な悩みを見てきました。事業承継は経営者の最後の大仕事ですから、いろいろな悩みや不安が生じるのは当然のことでしょう。
しかし現在では各中小企業の事業承継を円滑に進めるため、国を挙げてさまざまな取り組みがなされています。公的機関・民間を問わず相談先が充実していますし、費用面では税免除の制度なども設けられています。不安があれば中小企業庁が策定するガイドラインやマニュアルに立ち返るのもよいでしょう。
事業承継も大切な問題ですが、経営者には目の前の事業と従業員を率いていくという大切な役割があります。経営に支障をきたすほどの悩みを抱えないように、早めの対策と良い相談相手を見つけておくことを心がけましょう。
事業承継の悩みに関するよくある質問
以下では、事業承継を進めるうえで寄せられることの多い質問とポイントを整理しています。
- 事業承継はいつから検討を始めるべきですか?
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事業承継の準備は、一般的には引退を考える5~10年前、経営者が60歳前後を目安に始めることが推奨されます。
後継者の育成や、株式・資産の承継、税金対策には長い時間がかかります。
早期に着手することで、会社の価値を最大限に高め、M&Aを含めた多様な選択肢をじっくりと検討できます。
何よりも、経営者自身の急な病気や引退といった不測の事態に備え、会社の未来を守ることにつながるでしょう。
- 赤字や債務超過の会社でも事業承継は可能ですか?
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赤字や債務超過の会社でも事業承継が可能です。
特に親族内承継の場合、債務超過であっても、事業承継税制の特例措置の適用要件(雇用維持など)を満たせば、贈与税・相続税の納税猶予(実質免除)を受けられるケースがあります。
ただし、要件を満たさない場合は猶予が取り消されるため、専門家への相談が必須です。
M&Aの場合でも、事業の将来性や技術・人材などの価値があれば、買い手が見つかる可能性はあります。
特に事業譲渡であれば、負債を引き取らない形での売却も可能です。