事業承継は借入金も承継対象!早期の対策で円滑な事業承継を目指そう

目次

事業承継する際は借入金の引き継ぎも考慮する必要がある

事業承継は、やらなければならないことがたくさんあります。成功させるためには、早い段階から準備を始めることが大切です。しかし進めるにあたり、課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。例えば借入金です。

「借入金があるまま引き継いだら、後継者の負担になりそうで不安」

「個人事業主の場合も、借入金を引き継がなければならないのか」

このような借入金に関する悩みから、事業承継を進められない方もいると思います。今回は事業承継と借入金の関係を解説します。今からできる対策も併せて解説しますので、事業承継を考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。

事業承継と借入金の関係

借入金とは負債です。負債を抱えたまま後継者に事業承継するとどうなってしまうのか、不安に思う経営者は多いでしょう。また後継者から見ても、借入金がある状態で引き継いだらどうなるのか気になると思います。ここでは借入金が残っている状態で事業承継した場合、どうなるのか解説します。

事業承継では原則として借入金も引き継ぐ

借入金がある状態で事業承継した場合、原則として借入金もそのまま後継者に引き継ぐことになります。親族に引き継ぐ親族内承継でも、それ以外の人に引き継ぐ親族外承継でも変わりません。

M&Aを活用して別の企業に譲渡した場合でも、借入金は新しい経営者に引き継がれます。では借入金を引き継ぐことに、リスクはないのでしょうか。

実は事業承継をした後に金融機関の融資姿勢が大きく変更となるケースがあり、借入金の一括返済を求められることがあります。つまり多額の借入金を抱えたまま事業承継した場合、返済できずに倒産や廃業となる可能性もあるのです。そのため借入金を抱えたままの事業承継は、基本的におすすめできません。事業承継を進める場合は、なんらかの対策をしておく必要があります。

場合によっては連帯保証も承継する

事業承継は企業資産や経営権など、事業に関するあらゆるものを後継者へ引き継ぎます。プラスの資産だけなら良いですが、借入金をはじめ、マイナスの資産も引き継ぐことになります。

例えば経営者が金融機関から借り入れしている場合、連帯保証を提供しているケースがほとんどです。この連帯保証も後継者が引き継ぐことになります。しかしこの場合、後継者が連帯保証人となっても、現経営者がすぐに連帯保証人から抜けられるわけではないことに注意しましょう。連帯保証人の変更ではなく「追加」となります。なぜなら後継者に十分な資産があるとは限らないからです。

借入金やマイナスの資産が多い場合は、しっかりと対策を取ったうえで事業承継しないと、失敗リスクが高まります。早い段階で計画的に進める必要があるでしょう。

事業承継までにできる借入金対策

事業承継までにできる借入金対策

では事業承継を検討している段階で借入金がある場合、どのような対策ができるのでしょうか。ここでは以下の6つの対策を解説します。

  • 金融機関と交渉する
  • 事業の資金繰りを改善させる
  • 役員借入金を減らしておく
  • 後継者に個人資産を蓄積させておく
  • 相続放棄を検討してもらう
  • 法人向けの生命保険を活用する

自社の状況に合わせて、できる対策を取りましょう。

金融機関と交渉する

相続による事業承継の場合、借入金の相続についても視野に入れておかなければなりません。現経営者(被相続人)が亡くなり相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行ないます。しかし借入金などの債務は、遺産分割の対象外となります。事業資産をどのような割合で分割したとしても、債務は平等に引き継がなければなりません。

つまり事業資産を後継者が引き継ぎ、他の相続人は債務だけを引き継ぐことになる可能性もあるのです。しかしそれでは、後継者以外の相続人は納得がいかないでしょう。そこで事前に、事業承継する相続人以外の債務を免除できるように、金融機関に交渉することが必要です。

事業の資金繰りを改善させる

借入金が多く残っている状態での事業承継は、後継者にとって負担となります。そこで経営者は、後継者の負担を少しでも減らせるように資金繰りを改善していくべきです。経営の現状を振り返り、少しでも借入金を圧縮できるように努力しましょう。

財務状況が改善できれば、後継者の負担軽減に繋がるだけでなく、金融機関との交渉を有利に進めやすくなります。事業承継に関する資金繰りの相談は、税理士や会計士の他、商工会議所などでもできるので、迷ったら相談するとよいでしょう。

役員借入金を減らしておく

経営者のプライベート資金を企業の運転資金にすること、これを「役員借入金」といいます。利息の支払いをする必要もなく返済期限もありませんが、多額の場合は後継者の負担となるので注意しましょう。なぜなら役員借入金は、相続税の対象となるからです。

相続財産が増えれば、それだけ相続税も高額になります。いくら返済期限も利息もなくても、事業承継までに減らしておくことが大切です。役員借入金を減らすためにはいくつか方法があります。それが次の3つです。

DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用

DESとは、債務を資本金に振り替える方法です。例えば役員が企業に1,000万円貸付している場合、その1,000万円で株式を取得します。このように貸付金を株式に変えることで、実際に現金を動かすことなく、役員借入金を減らすことが可能になるのです。

暦年贈与

役員が後継者へ債務分を贈与するのも有効な方法です。年間110万円の基礎控除の範囲内であれば、贈与税がかかりません。ただし毎年決まった額の暦年贈与は、税務署から計画的贈与とみなされる可能性があるので注意が必要です。贈与額や支払時期を変えるなど、工夫する必要があります。

役員報酬を減らして役員借入金を返済

役員の報酬を減らし、その分を返済に充てる方法もあります。これにより企業の利益が増え、経営者が負担する所得税や住民税などの各種税金も減らすことが可能です。

後継者に個人資産を蓄積させておく

経営者が後継者の負担を減らすように努力することも大切ですが、後継者も資金を蓄えておく必要があるでしょう。中小企業の場合、経営が苦しくなると経営者のプライベート資金から調達するケースも多くあります。

後継者には、その事実を理解してもらわなければなりません。同時に早い段階から、個人資産を貯めておくようにしてもらうことが大切です。ある程度の個人資産があれば、いざというときにも慌てずに対処できるでしょう。

相続放棄を検討してもらう

借入金(債務)は遺産分割の対象外となるため、平等に引き継がなければならないことは前述しました。しかし相続による事業承継の際に、プラス資産はすべて後継者が、債務は相続人全員でわけるとなれば、いろいろと不都合が出てきます。

とはいえ、実際は遺産分割協議で債務についても負担割合を決められます。しかし協議の結果、プラス財産よりも債務が多いようなら、相続放棄を検討するのも一つの方法です。相続放棄した場合、債務だけではなくプラス財産もすべて引き継ぐ権利を失うことは覚えておきましょう。

ちなみに相続放棄した場合、他の親族に影響を及ぼす可能性があるので、検討する際はしっかりと相続人同士で話し合うことが大切です。

法人向けの生命保険を活用する

受取人を法人とした、生命保険の活用もおすすめです。経営者に万が一のことが起きた場合には多額の保険金を受け取れますし、なにもなく一定期間を超えれば返戻金を受け取ることができます。

また借入金対策のみならず、自社株対策にも生命保険の活用は有効です。自社株の評価が高くなると、それだけ高額な相続税が課せられます。相続税は現金一括納付が原則ですが、後継者に納税資金が用意できない場合、自社株を売却しなければならないかもしれません。

しかしそうなった場合、今度は経営権を守れなくなるリスクが発生するのです。生命保険を活用して、多額の現金を受け取れるようにしておけば、そのようなリスクも回避できます。

生命保険と聞くと身構えてしまうかもしれません。しかし高額な相続税の支払いや、借入金一括返済となった場合にも、慌てずに対処できる方法として有効なので覚えておきましょう。

個人事業主の事業承継と借入金の関係

個人事業主の事業承継と借入金の関係

中小企業ではなく個人事業主だった場合も、同じように借入金を引き継ぐ必要があるのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。ここでは個人事業主が、借入金がある状態で事業承継する場合にどうなるのか解説します。

個人事業主の事業承継は借入金を引き継がなくても良い

個人事業主の場合、事業承継の際に借入金を引き継ぐかどうかは選択可能です。中小企業の場合は借入金の名義が企業になっているので、その企業の新しい経営者となった後継者に引き継がれることになります。

しかし個人事業主の場合、借入金の名義は現経営者です。事業承継する場合は、現経営者が廃業手続き、後継者が開業手続きをします。つまり事業の名義そのものが変わるので、現経営者名義の借入金は現経営者のまま、後継者が引き継ぐ必要はないのです。借入金がある場合は中小企業よりも、個人事業主のほうが事業承継のハードルが低いかもしれません。

個人事業主の事業承継で借入金を引き継ぐケース

個人事業主の場合、借入金を引き継ぐ必要はないと前述しましたが、実際は引き継がざるを得ないケースも多くあります。借入金なしで事業が回せれば問題ありません。しかし借入金で資金繰りをしていた状態から、急に借入金に頼らず回していくのは、後継者に多額の資金がない限り難しいでしょう。

資金繰りが上手くいかなければ、廃業してしまいます。そのため実際には、預金と借入金の両方を引き継ぐのが一般的です。

事業承継の準備は早期に進めよう

事業承継と借入金の関係、今からできる借入金対策を解説しました。資金繰りをするうえで、多くの中小企業や個人事業主が借入をしています。しかし事業承継の際にその借入金が後継者の大きな負担になることを理解しておかなければなりません。

負担をなるべく減らすためにも、早い段階からできる対策を進めておきましょう。スムーズに事業承継するためにも、借入金に関する知識を深めておく必要があります。どこから対策を進めて良いかわからない場合は、事業承継をサポートしてくれる機関もありますので、早めに相談してみてはいかがでしょうか。

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