「そろそろ動物病院を誰かに引き継ぎたいけど、何から始めればいいのかわからない」
「事業承継やM&Aに興味はあるけれど、具体的な相場や手続きが不安…」
この記事では、動物病院のM&Aについて、仕組みや進め方、価格相場、実際の成功事例まで幅広く解説します。初めてM&Aを検討する方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
動物病院のM&Aとは
動物病院のM&Aとは、個人や中小規模法人が運営する動物病院の経営権や資産を、別の動物病院グループや企業、投資ファンドなどが「合併」または「買収」の形で引き継ぐことを指します。
動物病院業界では、院長の高齢化や後継者不足といった課題を背景に、M&Aが事業承継の選択肢として注目されています。
また、買収側にとっても、資金力や最新設備、人材、経営ノウハウを効率よく取り入れることで、経営の安定化や地域ネットワークの拡大につながるメリットがあるため、積極的に活用が進んでいます。
動物病院のM&Aと他業界の違い
動物病院のM&Aは、他業界と比べて独自性の高い取引といえます。最大の特徴は、経営者である獣医師本人が診療を担い、地域の飼い主と強い信頼関係を築いている点です。
そのため、売却時には価格よりもかかりつけ医としての継続性が重視され、譲渡価格を抑えてでも信頼の維持を優先するケースが多く、一般的な企業M&Aより低い評価倍率で成立する傾向があります。
また、獣医師法や動物愛護管理法に基づく許認可が必要なため、調査や契約には専門知識が求められます。一方で、安定した収益性や地域貢献性が評価され、金融機関からの融資支援が得やすい点も特徴です。
動物病院M&Aは、「信頼性・地域密着・法規制・価格の割安感・融資のしやすさ」などの要素が複合的に絡む、特殊性の高い取引といえます。
動物病院のM&Aの価格相場
動物病院のM&Aにおける売却価格は、一般的な中小企業の相場である「純資産に営業利益の3~5年分を加えた金額」と比べて、やや割安になる傾向があります。これは、売り手が病院の存続やスタッフ・顧客との関係を重視し、価格よりもスムーズな承継を優先するケースが多いためです。
実際の取引では、「純資産に営業利益の1~3年分を加えた金額」や、「営業利益(EBITDA)に4~7倍の倍率をかけた金額」を目安とすることが一般的です。たとえば、営業利益が1,000万円の病院であれば、4,000万~7,000万円程度が売却価格の目安となります。
もちろん、地域や病院の規模、設備の充実度などによって価格は前後しますが、この範囲が動物病院M&Aにおける相場感といえるでしょう。
動物病院のM&Aの事例
動物病院のM&Aは年々増加傾向にあり、規模や地域を問わずさまざまな形で実施されています。
動物病院のM&Aで成功した事例は、以下のとおりです。
以下では、実際に行われたM&Aの事例をご紹介し、それぞれの背景やポイントを詳しく紹介します。
事例1. ペットメディカルセンター・エイル・モデナ動物病院の吸収合併
株式会社WOLVES HANDは、2024年10月4日の取締役会において、完全子会社である株式会社ペットメディカルセンター・エイルと株式会社モデナ動物病院を吸収合併することを決議・契約しました。合併の効力発生日は2025年1月1日を予定しています。
本合併は、WOLVES HANDを存続会社とする吸収合併方式で、新株発行や金銭交付は伴いません。両社がすでに完全子会社であることから、会社法に基づく簡易合併・略式合併として株主総会を経ずに実施されます。
WOLVES HANDは2023年6月期に両社を完全子会社化しており、今回の合併は経営資源の一体運用による効率化と意思決定の迅速化を目的としています。
事例2. バハティーの子会社化
株式会社WOLVES HANDは、株式会社バハティーの全株式を取得し、子会社化することを決定しました。今回の株式取得は、2025年2月5日に開催された取締役会で決議されており、実行は2025年2月上旬を予定しています。
バハティーは、2016年開院の「守山しっぽ動物病院」を運営しており、地域に根ざした動物医療を提供しています。子会社化時点における同社の売上高は1億8,100万円、営業利益は2,800万円、純資産は1億7,500万円で、取得価額は非公表です。
WOLVES HANDは、関西・関東・九州・沖縄エリアで動物病院を展開しており、今回の子会社化は、成長が見込まれる守山市への進出を通じて、関西エリアの基盤強化とグループ内連携の深化を目的としています。
事例3. 安田動物病院の事業譲受
株式会社WOLVES HANDは、2025年1月6日、兵庫県西宮市の安田動物病院から動物病院事業を譲受しました。安田動物病院は1989年の開院以来、地域密着型の診療と学術研究を通じて信頼を築いてきました。
譲受により、WOLVES HANDは未出店だった西宮エリアに進出し、関西圏のネットワークと収益基盤を強化します。対象事業の2023年12月期売上は6,489万円で、譲受資産・負債の一部を引き継いでいます。価格は非開示ですが、事業価値評価や調査を経て決定されました。
動物病院のM&Aにおすすめの仲介会社・サービス
動物病院のM&Aを進めるうえで、信頼できる仲介会社や支援サービスの存在は欠かせません。
動物病院のM&Aにおすすめの仲介会社・サービスは、以下のとおりです。
専門性の高い業界だからこそ、動物医療の実情に精通したパートナーを選ぶことが、円滑な交渉と納得のいく結果につながります。
以下では、動物病院M&Aにおいて実績のある仲介会社や、便利なマッチングサービスを紹介します。
どこに相談すればよいか迷っている方には、複数の仲介会社をまとめて比較できる「M&A比較ナビ」の活用もおすすめです。
動物病院特化型M&A

会社情報 | 詳細 |
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サポート内容 | ・M&Aや事業承継に関する相談は無料 ・専門家による企業価値算定が無料 ・仲介依頼契約の締結 ・買収候補の提案 ・条件交渉 ・基本合意の締結 ・買収監査(デューディリジェンス) ・最終契約の締結 |
サポート体制 | ・経験豊富なコンサルタントが専属で担当 ・多様なバックグラウンドを持つM&Aコンサルタントが在籍 |
料金体系 | オーナー受取額レーマン |
特徴 | ・業界に精通した専門チーム ・お客様の要望に応じた最大のパフォーマンス発揮 ・ベストマッチングの実現 ・徹底した機密保持 |
運営会社 | 株式会社ストライク |
URL | https://www.strike.co.jp/animal/ |
動物病院特化型M&Aは、豊富な業界知見とネットワークを活かして、動物病院経営者のニーズに寄り添う仲介サービスです。
業界トップクラスの成約件数を誇る専門チームが、院長やスタッフとの信頼関係を重視しながら、最適な相手候補を提案します。また、自社開発のM&Aプラットフォーム「SMART」を活用し、買い手情報の質と量を担保したうえで、一気通貫のサポート体制を実現しています。
上場企業としての信頼性と監査体制も整っており、価格交渉や契約手続きの安心感も高いです。動物病院のM&Aを検討する方にとって、業界に特化した強力な支援体制が魅力のサービスです。
獣医療事業承継支援

会社情報 | 詳細 |
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サポート内容 | ・動物病院に特化した事業承継・M&Aアドバイザリ ・売り手・買い手支援(伴走型コンサル) ・譲渡後の働き方や獣医師としてのキャリア支援 |
サポート体制 | ・業界専門のコンサルタントが担当 ・最初の相談から成約まで一貫してサポート ・両サイドの意向を丁寧に調整 |
料金体系 | ・相談・着手〜中間まで無料 ・成功報酬型(成約時に料金発生) |
特徴 | ・動物病院に特化した専門性 ・獣医師の働き方を考慮した支援 ・業界理解に基づく質の高いアドバイス |
運営会社 | 株式会社M&Aコンサルティング |
URL | https://lp.mmac.cc/animal/ |
獣医療事業承継支援は、動物病院に特化したM&A仲介サービスです。
専門知識を持つコンサルタントが、譲渡・譲受双方のニーズを丁寧にヒアリングし、最適なマッチングを実現します。電話やメールによる無料相談から始められ、成約後は継続的な支援も提供されます。
安心して相談できる体制と、動物病院特有の課題に対応する実績が強みです。
A-BRAIN

会社情報 | 詳細 |
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サポート内容 | ・院長(譲渡者)と開業希望獣医師(譲受者)のマッチング ・譲渡前~譲渡手続きまでの面談・調整 |
サポート体制 | ・動物病院支援に特化したTYL社の専任アドバイザーが担当 ・面談で条件をヒアリングし、個別支援を実施 ・面談→紹介→意向確認まで一貫対応 |
料金体系 | ・完全成功報酬制を採用 (相談・マッチング・紹介・事務サポート含む) |
特徴 | ・動物病院特化で希望条件に寄り添っている ・国内最大級の『獣医師会員数』と『動物病院の経営支援実績』をもつ |
運営会社 | 株式会社TYL |
URL | https://abrain.jp/ |
A‑BRAINは、動物病院の経営支援やM&A事業承継に特化したサービスです。
譲渡実行までは完全無料で相談でき、譲渡後も経営計画策定から採用や集患支援まで継続してサポートされます。これまでに動物病院の相談実績があり、院長先生と開業希望獣医師のマッチング精度にも強みがあります。元動物病院経営者や獣医師、業界出身者がアドバイザーとして対応し、交渉力や業界理解を活かした伴走支援を実現しています。
動物病院経営の課題に寄り添った専門性と、信頼性の高い支援体制が魅力です。M&Aに不安や悩みがある院長先生にとって、安心して相談できるサービスとしておすすめです。
動物病院のM&Aの動向
動物病院業界では、院長の高齢化や後継者不足が深刻化しており、小規模病院の廃業リスクが高まっています。
その一方で、M&Aやグループ化による統合が進み、複数院展開する大手による買収・合併が活発化しています。外資系やファンドの傘下に入るケースも増え、共同仕入れや効率的な運営によって経営力を強化する病院が増えています。
また、全国の病院数が2014年から2023年にかけて約10%増加し、競争は一段と激化しています。その中で、M&Aは経営の再編や後継者問題の解消に加え、規模の拡大とシナジー追求の手段として活用されるようになっています。
今後は、ペット保険大手による動物病院買収によって、保険と診療の一体化や高度医療設備の導入が進む見通しです。また、M&A成約件数は増加傾向にあり、業界再編や事業承継を支える流れがさらに加速すると予想されます。
動物病院のM&Aのスキーム
動物病院のM&Aでは、譲渡や統合の目的に応じて、さまざまな手法が用いられます。動物病院のM&Aのスキームは以下のとおりです。
どのスキームを選ぶかによって、引き継がれる資産や契約、手続きの流れが大きく異なるため、特徴を正しく理解しておくことが大切です。以下では、代表的なM&Aのスキームについてご紹介します。
株式譲渡
株式譲渡は、譲渡側のオーナーが持つ株式を買い手に売却することで経営権を移転する方法です。この方式では法人自体が存続するため、事業や契約関係がそのまま引き継がれます。
動物病院では、院長個人の責任保証を解除しやすく、従業員引継ぎもスムーズな点がメリットです。
事業譲渡
事業譲渡は、動物病院の一部または全部の資産・負債を選択的に買い手へ移転する方法です。
法人は存続するため、契約関係や負債を切り離すことができます。施設やスタッフ、顧客を柔軟に引き継ぎたい場合に有効なスキームです。
合併
合併では、一つの病院法人が他の法人を吸収し、その権利義務を包括的に承継します。
吸収合併を選べば、新株発行や金銭授受を伴わない道もあり、手続きの簡易化が可能です。複数拠点を統合して経営効率を高めたり、グループ全体としての体制を一括再編したりする際に適しています。
動物病院グループのネットワークを強化し、迅速な意思決定体制を整えたい場合に有効な方法です
会社分割
会社分割には、既存法人が事業を引き継ぐ吸収分割と、新法人を設立して切り出す新設分割があります。
動物病院では、院内の特定診療科やペットホテル部門のみを別法人に分離し、財務・運営リスクを切り分ける用途に適しています。一方で、新法人設立により、既存体制を保持しつつ新たな出店形態にも対応できます。税制面のメリットも得られる可能性があります。
資本提携
資本提携は株式取得により、業務提携や経営協力の枠組みを構築する方法です。完全な経営権移転には至らず、譲渡ではなく将来的な協力関係を模索する際に効果的です。
ファンドや他法人との業務提携を通じ、技術交流や共同仕入れ体制を整えるなど、買収に先行する戦略的ステップとして利用されます。M&A前提でなく、事業連携をまず強化したい場合に適しています。
動物病院のM&Aを活用するメリット
動物病院のM&Aは、後継者問題の解消や事業の安定的な成長を実現する手段として注目されています。譲渡側・譲受側の双方にとって、多くのメリットが期待できる点も特徴です。
以下では、それぞれの立場から見たM&Aの利点について詳しく解説します。
譲渡側のメリット
動物病院を譲渡することで、院長自身が経営から解放され、診療に専念できる環境を得られます。スタッフや患者基盤をそのまま引き継ぐことで、地域医療の継続性を守ることが可能です。
また、後継者不足が解消され、創業者利益を得られる点も大きなメリットです。さらに、個人保証や担保責任から解放されることで、経済的な負担を軽減できます。
譲受側のメリット
M&Aを通じて、既存のスタッフ・設備・顧客基盤をそのまま引き継ぐため、立ち上げ期間を大幅に短縮し、初期コストを抑えることができます。
また、特定の専門性やノウハウを獲得することで、多角的な診療体制の構築やシナジー効果の獲得が見込めます。加えて、安定した財務実績を背景に、銀行融資など資金調達面で有利になるケースも多いです。
動物病院のM&Aを実施するポイント・注意点
動物病院のM&Aを成功させるには、単に譲渡や譲受の条件を整えるだけでなく、業界特有の事情や法的な要件にも十分な配慮が必要です。スムーズな手続きとその後の安定した運営のために、事前に確認しておくべき重要なポイントがあります。
以下では、M&Aを実施する際の注意点について解説します。
譲渡側の注意点
譲渡側は、買い手の選定を慎重に行うことが重要です。相性が合わない相手ではミスマッチが起きやすく、交渉の停滞につながります。また、財務・債務や契約関係など、都合の悪い事実は隠さず速やかに開示すべきです。隠蔽すると交渉の途中で破談になるリスクや、契約後の損害賠償請求につながる可能性があります。
さらに、M&A準備は早めに始めるのが望ましく、計画的な準備が交渉の円滑化と高値売却に寄与します。
譲受側の注意点
譲受側は、譲渡される病院の財務内容や偶発債務の有無を徹底的に調査する必要があります。簿外債務などを見逃すと、想定外の負担を抱え込むリスクがあるため、デューデリジェンスは特に重要です。
また、病院ごとに異なる診療スタイルや文化に馴染むため、スタッフや地域への配慮も欠かせません。さらに、M&A後に期待したシナジー効果が得られなかった場合、既存スタッフの離職や業績悪化を招く恐れもあります。
動物病院のM&Aを実施する手順
動物病院のM&Aを実施する手順は、以下の通りです。
まずは、なぜM&Aを行うのか、その結果どのような状態を目指すのかを明確にします。譲渡側は後継者不在の解消や退職後の安定、譲受側は収益向上やエリア拡大など目的を整理することで、以降の進行がスムーズになります。
M&A仲介会社や税理士、弁護士などの専門家に相談し、業界に精通したパートナーを見つけます。動物病院特有の法務・財務・労務リスクに対応できる体制が成功の鍵となります。
仲介会社の選択に迷っている方は、複数社を一括比較できる「M&A比較ナビ」の活用もおすすめです。信頼できるパートナー探しの第一歩として、ぜひ検討してみてください。
財務諸表、月次売り上げ、治療件数、設備の状態、顧客数など、必要な資料を揃えます。評価指標(EBITDAやDCF法など)を用いて事業価値を算定し、買い手に納得感のある根拠を示すことが重要です。正確な資料整備は、買い手との信頼構築や交渉力の強化に直結します。
仲介会社がノンネームシート(匿名資料)で候補者へのアプローチを行います。理念や診療方針が合う買い手を選ぶことで、交渉の進行がスムーズになり、売却後も院の価値が維持されやすくなります。気になる相手が現れたら、まずは面談や現地見学を経て意思疎通を図ります。
買い手が財務・法務・労務の詳細を確認します。簿外債務や契約上のリスクがないか精査し、発見された問題点については価格や条件の調整を行います。調査の精度が高いほど、買収後のトラブルを防ぐことができます。
買い手が財務・法務・労務・人事等の精査を行います。不備や隠れ負債がないか確認し、必要に応じて調整します。スムーズな調査は、契約締結の土台となります。
調査結果を反映し、譲渡価格、支払方法、担保・保証、引継条件などを契約書(DA)に明確に反映して締結します。法的リスクを最小限に抑えるためにも、弁護士や専門家によるチェックを受けることが重要です。
契約締結後は、スタッフや顧客への挨拶、役所手続き、許認可の更新などの実務を実施します。元院長がしばらく相談役として関わることで、医療品質の安定やスタッフの安心感を維持しやすくなります。また、引継ぎ期間の計画を立てて、段階的に業務を移行することが成功のポイントです。
動物病院のM&Aに関するよくある質問
以下では、動物病院のM&Aを進めるうえで寄せられることの多い質問とポイントを整理しています。
- 動物病院のM&Aで必要な資格や許可は?
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動物病院の M&Aには、単なる企業売買とは異なる法的許認可が必要です。
- 獣医師免許・診療施設開設届:院長(譲受側を含む)は獣医師国家資格が必要で、都道府県知事に診療施設開設届を提出します 。
- 動物取扱業の届出:入院や預かり業務を行う場合、「動物取扱業」の登録が保健所に必要です。
- X線等医療機器の届出:X線装置などを使用する施設では、所定の設置届の提出が求められます。
上記のような許認可はM&A後も常に維持が義務付けられており、譲受側は登記・届出の再提出や更新手続きが必須です。また、薬事法関連(麻薬・向精神薬など)の管理要件にも十分注意が必要です。
- 売却後も獣医師として病院で働けますか?
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獣医師として売却後も病院で働き続けることは可能です。多くのケースでは、信頼関係や医療体制の継続を目的に、譲渡後も一定期間勤務する契約が結ばれています。診療を続けながら、経営の負担を手放したいと考える院長にとっては理想的な選択肢といえるでしょう。
勤務条件や譲渡後の関わり方も含めて、自分に合った買い手を見つけたい場合は、複数の仲介会社を比較できる「M&A比較ナビ」の活用がおすすめです。
希望に沿った相手と出会える可能性が高まります。