「後継者がおらず、長年守ってきた会社の将来が不安だ」
「自社の食品事業を譲渡したいが、何から手をつければ良いかわからない」
この記事では、食品業界のM&A動向や価格相場、具体的な成功事例、失敗しないためのポイントを網羅的に解説します。
M&Aを前向きな選択肢として捉え、次の一歩を踏み出す準備を整えましょう。
食品業界のM&Aとは
食品業界のM&Aとは、企業の合併や買収を通じて、経営権の移動や事業の再編を行う経営戦略のことです。
後継者不足に悩む中小企業が事業を存続させるための手段として、また、大手企業が新たな市場や技術を獲得し事業規模を拡大するための手段として、活発に活用されています。
食品業界は、私たちの生活に不可欠な「食」を支える重要な産業ですが、多くの企業が後継者不足や原材料価格の高騰、人材確保の難しさといった課題に直面しています。こうした状況のなか、M&Aは単なる企業売買に留まりません。
長年培ってきたブランドや技術、従業員の雇用を守りながら、買い手の資本力や販路を活用して、事業をさらに発展させるためのポジティブな選択肢として注目されているのです。
食品業界のM&Aと他業界との違い
食品業界のM&Aは、他業界との主な違いは「ブランド価値の重要性」「法規制の複雑さ」「サプライチェーンの特殊性」の3点です。
まず、食品業界では味や評判、ブランドイメージといった「無形資産」が企業価値を大きく左右します。長年愛されてきたレシピや商品のブランド力は、他社が簡単に模倣できない強力な競争力です。
次に、HACCP(ハサップ)と呼ばれる衛生管理基準や食品表示法など、遵守すべき法規制が多岐にわたります。M&Aの際には、これらの許認可を正確に引き継がなければなりません。
最後に、賞味期限のある原材料や製品を扱うため、在庫管理や物流といったサプライチェーンの管理が極めて重要になる点も、他業界にはない特徴といえるでしょう。
食品業界のM&Aの価格相場
食品業界のM&Aにおける価格相場は、企業の規模や収益性、ブランド力によって大きく変動しますが、一般的には「時価純資産に営業利益の2年〜5年分を上乗せした金額」が目安とされています。
これは年倍法(年買法)と呼ばれる計算方法で、中小企業のM&Aで広く用いられる方法です。
企業価値を評価する際には、主に3つのアプローチがあります。保有資産から負債を引いて価値を算出する「コストアプローチ」、将来期待される収益から価値を出す「インカムアプローチ」、そして類似企業の取引事例と比較する「マーケットアプローチ」です。
実際のM&Aでは、これらの方法を組み合わせて多角的に企業価値を算定します。老舗ブランドの知名度や独自の製造技術、安定した販路なども価格を押し上げる重要な要素となり、相場以上の価格で取引されるケースも少なくありません。
食品業界M&Aの最新・注目事例3選
食品業界では、事業承継や事業拡大を目的としたM&Aが活発に行われています。
現場の具体的な動きから、M&Aの可能性をイメージしてみてください。
以下では、実際に行われた食品業界のM&A事例を取り上げ、それぞれの背景や目的について詳しく紹介します。
【大手×中堅】オイシックスによるシダックス給食事業の子会社化
食品宅配大手のオイシックス・ラ・大地株式会社が、給食事業大手のシダックスを株式公開買付(TOB)により子会社化した事例です。
このM&Aは、オイシックスが個人向け(BtoC)事業で培った商品開発力やマーケティングノウハウと、シダックスが持つ法人向け(BtoB)の給食事業の広範なネットワークを融合させることを目的としています。
オイシックスは、保育園や幼稚園向けの給食事業を強化し、新たな顧客層の開拓を目指しました。一方、シダックスは経営基盤を安定させ、食材調達コストの削減やメニュー開発力の向上といったシナジー効果を期待しています。
この事例は、異なる強みを持つ企業同士が連携し、新たな価値を創出する戦略的M&Aの典型例といえるでしょう。
【事業承継】クスリのアオキHDによる食品スーパー「木村屋」の買収
ドラッグストア大手の株式会社クスリのアオキホールディングスが、千葉県で食品スーパーを展開する「木村屋」の全株式を取得し、完全子会社化した事例です。
これは、後継者不在に悩む企業の事業承継を目的としたM&Aです。
クスリのアオキは、食品販売を強化することでドラッグストア事業との相乗効果を狙っています。生鮮食品に強みを持つ木村屋を取り込むことで、ワンストップで買い物を済ませたい顧客のニーズに応え、集客力を高める戦略です。
一方、木村屋は大手グループの傘下に入ることで、経営基盤の安定化と従業員の雇用維持を実現しました。地域に根差した食品スーパーが、大手資本と組むことで存続・発展する好事例です。
【異業種×食品】KDDIによるローソンへの資本参加とコンビニ事業への進出
通信大手のKDDI株式会社が、コンビニエンスストア大手のローソンに対し株式公開買付(TOB)を実施し、三菱商事と共同で経営にあたることを発表した事例です。
これは、通信という異業種から食品小売業界へ本格的に参入する象徴的なM&Aといえます。
このM&Aの目的は、KDDIが持つ約1億の会員基盤とデジタル技術を、ローソンの全国約1万4600店舗のリアルなネットワークと融合させることです。通信と店舗を組み合わせることで、新たなサービスの開発や顧客体験の向上を目指しています。
コンビニという社会インフラと通信インフラが連携することで、地域社会の課題解決への貢献が期待される、未来志向の異業種M&Aです。
食品業界におけるM&Aでおすすめの仲介会社・サービス3選
食品業界のM&Aは、衛生管理や許認可の引き継ぎなど、専門的な知識が求められます。
そのため、業界に精通したM&A仲介会社のサポートは不可欠です。信頼できるパートナーを選ぶことが、M&A成功の第一歩となります。
食品業界のM&Aにおすすめの仲介会社・サービスは、以下のとおりです。
以下で、それぞれの仲介会社やサービスの特徴を詳しく紹介します。
どの仲介会社に相談すべきか判断が難しい場合は、複数のサービスをまとめて比較検討できる「M&A比較ナビ」の活用が便利です。自分に合った支援先を見つけたい方は、まずは無料相談から始めてみてください。
ストライク

会社情報 | 詳細 |
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サービス名 | ストライク |
サポート内容 | • M&A仲介、FA(フィナンシャルアドバイザリー)業務、企業価値評価 • 初回ご面談時に貴社に特化した無料分析レポートを提供 • 食品業界の事業承継課題解決、成長支援、業界再編を目的としたM&A |
サポート体制 | • 食品業界に長年従事し、業界に精通したM&Aコンサルタントによる専門チームが在籍 • 譲渡・譲受双方の企業を同じコンサルタントが担当し、成約まで一貫してフルサポート • 常に17,000社以上の買収ニーズを把握している全国9拠点すべてのコンサルタントが連携し、強力なマッチング力を提供 |
料金体系 | 完全無料制 お相手が見つかるまでは完全無料 初期費用 着手金、企業価値算定費用、月額報酬はすべて0円 相談料 M&Aや事業承継に関する相談も無料(電話・面談含む) 費用発生タイミング 基本合意の締結時に報酬が発生 最終契約の締結(成約)時に成約報酬が発生 特記事項 納得するお相手と条件面についての合意が得られるまで、費用をいただくことはありません |
特徴 | • 東京証券取引所プライム市場上場企業としての高い信頼性 • 食品業界における豊富なM&A成約実績 • 川上(生産)から川下(販売)まで、食品業界の幅広い事業領域のM&Aに対応 • 面談時に貴社の無料分析レポートを迅速に提供 • 「人の想い」を重視し、公平で親身なコンサルティング |
運営会社 | 株式会社ストライク |
URL | https://www.strike.co.jp/industry/food/ |
株式会社ストライクは、食品業界に特化したM&A仲介会社です。食品業界に精通した専門チームが、初回相談時から無料分析レポートを提供し、M&Aをフルサポートします。
農業・漁業(川上)から、製造加工・卸(川中)、そして販売・飲食店(川下)まで、幅広い食品事業領域のM&Aに対応しています。後継者不在や成長戦略、業界再編など、食品業界特有のあらゆるニーズに応えることが可能です。
全国9拠点、17,000社以上の買収ニーズを把握する広範なネットワークを活かして、最適な候補先を見つけ出せます。料金体系は着手金や企業価値算定費用、月額報酬、相談料が全て無料で基本合意が締結されるまでは費用が発生しません。
食品業界における豊富な実績と信頼性で、企業の事業承継やさらなる成長を支援する心強いパートナーとなるでしょう。
特にストライクの担当者清野さんには、親身に相談に乗っていただき感謝しています。明確なアドバイスというよりも、普段の会話の中で気づきを与えてくれる、そんなプロフェッショナルな姿勢に感銘を受けました。
引用:公式HP
専門性の高さとネットワークのバランスがとれている。また経営陣のモラル、違法意識が強く信頼できる。
引用:OpenWork
迷惑メールが酷い。
連絡しないでください。引用:Google Map
スピカコンサルティング

会社情報 | 詳細 |
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サービス名 | スピカコンサルティング |
サポート内容 | ・食品業界に特化したM&A ・事業承継支援を提供 ・企業価値を最大化する「バリューアップコンサルティング」も行う |
サポート体制 | ・食品業界特有の商習慣を把握したうえで、譲渡・譲受双方に安心できるM&Aを目指す ・企業価値を高めるコンサルティングを通じて長期的にサポート ・広いネットワークを活用し、最適な候補先をリストアップするところから支援 |
料金体系 | 完全成功報酬制 着手金・中間報酬なしM&A成約まで一切料金が発生しない 報酬計算方法 株式譲渡対価レーマン方式(負債額を含めないため手数料が安い) 報酬料率 5億円以下の部分:2,500万円 5億円超~10億円以下:4% 10億円超~50億円以下:3% 50億円超~100億円以下:2% 100億円超:1% 成功報酬全額免除プラン 業界初のサービス オプション費用200万円(税抜) 支援に不満があった場合は成功報酬全額免除 (条件:決済日前日までの申し出+1ヶ月以内のインタビュー協力) |
特徴 | ・食品業界に特化した高い専門性 ・「バリューアップコンサルティング」と「業界特化型M&A」を提供・長期的なコンサルティングを通じて企業価値向上をサポート |
運営会社 | スピカコンサルティング株式会社 |
URL | https://spicon.co.jp/ |
スピカコンサルティングは、食品業界のM&Aを専門に手掛ける特化型の企業です。不安定な仕入れや人手不足、海外販路開拓の難しさといった業界特有の課題を深く理解し、譲渡側・譲受側双方に安心感のあるM&Aを目指しています。
スピカコンサルティングの大きな特徴は、単なるM&A仲介に留まらず、企業価値そのものを高める「バリューアップコンサルティング」を提供している点です。食品業界に精通したメンバーが、貴社のブランド力や収益力を長期的に向上させる支援を行います。
原材料費高騰などで経営環境が厳しさを増すなか、幅広いネットワークを駆使して最適なパートナーを探し、貴社の価値を最大化した形でのM&Aを実現します。
事業の将来を見据えた、一歩踏み込んだコンサルティングを求める経営者におすすめです。
スピーディかつ丁寧な対応で相談にのってくれたことで安心感があった
引用:公式HP
M&A仲介サービスに食品が加わりこれで、調剤、物流、製造、LPガス、不動産、6業種取り扱えるようになりました。
バーティカルSaaSのように業界特化型なので、コンサルタントの深い知識が強みの一つです。スピカコンサルティング、食品業界のM&A仲介サービスを開始
引用:X(旧Twitter)
小林という男性から社長いますか?と知り合いかのような電話。要件も言わずとても不審でした。
引用:jpnumber
M&Aオール

会社情報 | 詳細 |
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サービス名 | M&Aオール |
サポート内容 | • 食品製造業に特化したM&A仲介 • 買い手候補の探索と最適なマッチング • M&Aに関する各種相談(中小企業や専門事業者向け) |
サポート体制 | • 食品製造業界に精通したM&Aコンサルタントおよび専門家 • 独自に構築した豊富な買い手候補ネットワーク |
料金体系 | 基本料金 相談料無料、着手金無料、月額報酬無料 費用発生タイミング 基本合意の締結まで一切費用は発生しません (もしくは独占交渉権の付与まで) 成功報酬 株式譲渡価格の5.5% (負債部分は算定基礎に含まれません) 支払いタイミング 基本合意書締結時点で成功報酬の10% M&A成立時に残り90% その他 最低手数料額設定あり 業務協業契約の場合は手数料800万円 |
特徴 | • 食品製造業に特化し、業界の課題に精通 • 豊富な買い手候補ネットワークと質の高い交渉 • 最短3ヶ月のスピードM&A実績 • 黒字企業の仲介に強み • 情報の透明性を重視し、分かりやすさを徹底 |
運営会社 | 株式会社INNOVATION LEADERS |
URL | https://ma-all.net/ |
M&Aオールは、食品製造業界のM&A、特に中小企業や事業部単位での売却に特化した専門仲介会社です。
独自に構築した豊富な買い手ネットワークと業界に精通したコンサルタントが、貴社の技術やブランド価値を正しく評価し、生産ラインの増強などを目指す最適な相手を迅速に見つけ出します。
また、着手金・相談料が無料で、基本合意まで一切費用が発生しない料金体系は、初めてM&Aを検討する経営者にとっても大きな安心材料です。専門用語を避けた丁寧な説明で情報の透明性を確保し、黒字企業の仲介に強みを持つ点も信頼できます。
事業承継や生産性向上に悩む食品メーカーのオーナーにとって、非常に心強い存在となるでしょう。
スムーズに進められた要因は2つあると考えています。
1つはM&Aコンサルタントが適切にアドバイスをしてくれたこと。もう1つは売り手のオーナーが親身になって対応してくれたことです。引用:公式HP
書類の手続きが遅れ、先方に迷惑をかけたことがありましたが、それを誠心誠意相手に伝えていただき、破談にならないよう取り計らってもくれました。
引用:公式HP
スパムメールを送ってくる会社に、法人の売買を希望するとでも思っているのだろうか?
引用:Google Map
食品業界のM&A動向(現状・課題・今後)
食品業界のM&Aを検討するうえで、業界全体の動向を把握することは非常に重要です。
ここでは「現状」「課題」「今後」の3つの視点から、食品業界のM&A動向を解説します。
【現状】消費者ニーズの多様化とHACCP対応で業界再編が活発化
現在、食品業界では消費者ニーズの急激な多様化と、国際的な衛生管理基準への対応という業界特有の課題を背景に、M&Aによる業界再編が活発になっています。
国内市場が成熟し人口減少が進む中で、企業が生き残るためには、これまでのやり方を見直す必要に迫られているためです。
具体的には、健康志向や簡便化、サステナビリティといった消費者の価値観の変化に、スピーディーに対応する商品開発力が求められています。また、2021年に完全義務化されたHACCP(ハサップ)という衛生管理手法への対応には、多額の設備投資や専門知識を持つ人材の確保が不可欠であり、これが中小企業の大きな負担となっています。
こうした状況から、特定の分野で強みを持つ中小企業が、開発力や資本力のある大手の傘下に入ることで、経営基盤を強化し、共に成長を目指すM&Aが増加しているのです。
【課題】原材料高騰と人材不足が引き起こす経営課題
食品業界は、原材料価格の高騰と慢性的な人材不足という大きな課題に直面しています。
ウクライナ情勢や円安の影響で、小麦や油脂といった原材料の仕入れ価格は上昇を続けており、企業の収益を圧迫する大きな要因です。
また、製造ラインや店舗で働く人材の確保も年々難しくなっています。これらの課題を単独で解決するのは困難であり、経営を圧迫する要因となります。
M&Aによって大手グループの傘下に入り、仕入れの効率化や人材採用力の強化を図ることは、こうした経営課題を解決するための有効な手段の一つです。
【今後】健康・サステナビリティ志向を追い風に成長分野での再編が加速
今後は、消費者の健康志向や環境問題への関心の高まりを背景に、成長分野でのM&Aが一層加速すると予測されます。
具体的には、プラントベースフード(植物性食品)やオーガニック食品、機能性表示食品といった分野が注目されています。
また、フードテックと呼ばれる最新技術を活用した新たな食品開発や、食品ロス削減に貢献するビジネスも成長が見込まれる領域です。こうした新しい分野への参入や技術獲得を目的として、異業種からのM&Aも増えていくでしょう。
消費者の価値観の変化に対応することが、今後の食品業界における成長の鍵となります。
食品業界におけるM&Aの代表的なスキーム3選
M&Aにはいくつかの手法(スキーム)があり、目的や状況に応じて最適なものを選択します。
食品業界でよく用いられる代表的なスキームは「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」の3つです。
【株式譲渡】中小企業のM&Aで最も一般的な包括承継の手法
株式譲渡は、会社のオーナーが保有する株式を買い手に売却することで、会社の経営権を全て引き継ぐ手法です。 中小企業のM&Aにおいて最も広く利用されています。
この手法のメリットは、手続きが比較的シンプルである点です。会社の資産や負債、許認可、従業員との雇用契約などを個別に移転する必要がなく、包括的に承継できます。そのため、食品衛生法に基づく営業許可などもスムーズに引き継ぐことが可能です。
会社の歴史や文化を丸ごと引き継ぎたい場合に適したスキームです。
【事業譲渡】不採算事業のみなど、売却対象を限定できる手法
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を選んで売買する手法です。
例えば、複数の食品ブランドを持つ会社が、特定のブランドの事業だけを売却するようなケースで利用されます。
事業譲渡による最大のメリットは、売り手と買い手が売買の対象とする資産や負債の範囲を自由に決められる点です。買い手は、不要な資産や簿外債務(帳簿に載らない債務)を引き継ぐリスクを避けられます。
ただし、資産や契約、許認可などを個別に移転する必要があるため、株式譲渡に比べて手続きが煩雑になる傾向があります。
【合併】複数の法人格を一つに統合し、経営基盤を強化する手法
合併とは、2つ以上の会社を契約によって1つの会社に統合する手法です。
合併には、一方の会社がもう一方の会社を吸収する「吸収合併」と、全ての会社が解散して新会社を設立する「新設合併」があります。複数の会社が一体となることで、仕入れや生産、販売の効率化といったシナジー効果を最大限に発揮できる可能性があります。
ただし、株主構成や従業員の処遇など、調整すべき項目が多く、手続きは最も複雑です。
食品業界でM&Aを活用するメリット
M&Aは、会社を譲渡する側(売り手)と譲り受ける側(買い手)の双方に大きなメリットをもたらします。
食品業界ならではのメリットを理解し、自社の成長戦略に活かすことが重要です。
【譲渡側】秘伝の味やブランドを承継し、販路拡大を実現できる
譲渡側(売り手)にとって最大のメリットは、後継者がいなくても、長年守り続けてきた事業やブランドを未来へ存続させられる点です。
廃業を選べば失われてしまう「秘伝の味」や技術、そして何より大切な従業員の雇用を守れます。
さらに、自社単独では難しかった大規模な設備投資や全国規模での販路拡大も、買い手の資本力やネットワークを活用することで実現可能になります。
オーナー経営者は、会社を成長させてくれる後継者にバトンを渡し、創業者利益を確保したうえで安心して引退後の人生を歩めるでしょう。
【譲受側】販路や製造拠点を獲得し、スピーディーに事業を拡大できる
譲受側(買い手)にとってのメリットは、時間とコストを大幅に節約しながら、スピーディーに事業を拡大できる点です。
新たな工場を建設したり、一からブランドを育てたりするには莫大な投資と年月がかかりますが、M&Aならこれらを一括で手に入れられます。
特に食品業界では、実績のあるブランドや製造ノウハウ、許認可、そして地域に根差した販路は非常に価値の高い経営資源です。これらを獲得することで、既存事業とのシナジー効果を生み出し、市場での競争力を一気に高められる可能性があります。
M&Aは、まさに「時間を買う」ための有効な経営戦略なのです。
食品業界でM&Aを成功させるポイント・注意点
食品業界のM&Aを成功させるためには、業界特有のリスクや注意点を事前に理解しておく必要があります。
譲渡側・譲受側それぞれの立場で、特に注意すべきポイントを解説します。
【譲渡側】秘伝のレシピなど交渉中の情報管理を徹底する
譲渡側(売り手)にとって最も重要なのは、交渉過程における情報管理の徹底です。
特に食品業界では、「秘伝のレシピ」や独自の製造ノウハウ、主要な取引先リストといった情報が会社の競争力の源泉となっています。
M&Aの交渉が進むと、こうした機密情報を買い手候補に開示する必要がありますが、もし交渉が破談になれば、情報が漏洩するリスクが伴います。
そのため、信頼できる仲介会社を選び、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、慎重に情報を開示することが不可欠です。
また、M&Aの噂が従業員や取引先に広まると、不要な憶測を呼び経営に支障をきたす恐れがあるため、情報開示のタイミングも慎重に検討する必要があります。
【譲受側】食中毒など、食品業界特有の隠れたリスクを見極める
譲受側(買い手)が最も注意すべきなのは、食中毒やアレルギー表示の誤り、産地偽装といった食品業界特有の「簿外債務」のリスクです。
これらの問題は、財務諸表などの書類上には表れにくいですが、ひとたび発覚すれば企業の信用を大きく損ない、多額の損害賠償につながる可能性があります。
M&Aの最終契約前に行うデューデリジェンス(買収監査)の際には、衛生管理体制や品質管理の記録、過去の行政指導の有無などを徹底的に調査することが極めて重要です。
HACCPの運用状況や従業員のコンプライアンス意識なども含め、専門家と連携して目に見えないリスクを正確に見極めることが、M&A成功の鍵となります。
失敗しないための食品業界M&Aの全10手順
食品業界のM&Aは、業界特有のポイントを押さえながら、計画的に進めることが成功の鍵となります。
一般的な手順に、食品業界ならではの注意点を加えて解説します。
まずは「なぜM&Aを行うのか」を明確にします。後継者問題の解決だけでなく、「自社ブランドを全国展開したい」「HACCP対応の設備投資資金を確保したい」など、食品事業ならではの目的を具体化することで、その後の交渉の軸が定まります。
食品業界の商慣習や法規制に精通した、信頼できるM&A仲介会社を選びます。衛生管理や許認可の専門知識を持つアドバイザーの存在が、円滑な進行には不可欠です。
どの仲介会社を選べば良いか迷う場合は、複数の会社を比較検討できる「M&A比較ナビ」のようなサービスを利用するのも一つの手です。
自社の価値を正しく評価します。食品業界では、財務諸表に表れる数字だけでなく、「秘伝のレシピ」「長年取引のある仕入れ先」「スーパーの棚を確保している販路」といった無形の資産が非常に重要です。これらの強みを企業概要書でしっかり言語化し、アピールすることが高評価に繋がります。
自社の強みを最も活かしてくれる買い手候補を探します。同業の食品メーカーだけでなく、販売チャネルを持つ小売業、新たなメニュー開発を目指す外食産業、健康分野への進出を狙う異業種など、幅広い視野で候補をリストアップすることが成功の可能性を広げます。
買い手候補の経営者と直接会い、「食」に対する考え方や、従業員・ブランドを大切にしてくれる相手かを見極めます。特に、譲渡後もオーナーが一定期間会社に残る場合は、経営方針や価値観のすり合わせが極めて重要です。双方が納得したうえで、基本的なM&Aの条件を定めた基本合意書を締結します。
買い手による詳細な企業調査(デューデリジェンス)が行われます。食品工場の場合は、通常の財務・法務調査に加え、HACCPの運用状況、アレルゲン管理体制、賞味期限管理、トレーサビリティの確保、過去の食品事故や自主回収の履歴など、品質・衛生管理に関する徹底した調査が実施されるのが最大の特徴です。
食品衛生法に基づく営業許可の引き継ぎ手続きは、M&Aのスキームによって異なります。特に事業譲渡の場合は、買い手が新たに許可を取り直す必要があり、事業が一時的にストップしないよう、保健所などと連携し、計画的に進める必要があります。有機JASやハラル認証といった特殊な認証がある場合は、さらに複雑な手続きが求められます。
デューデリジェンスで判明した問題点(例:設備の老朽化、潜在的な品質クレームのリスクなど)を反映させ、最終的な譲渡価格や条件を交渉します。特に、将来食中毒などが発生した場合の責任の所在など、食品業界特有のリスク分担について、契約書で明確に定めておくことが重要です。
最終契約書の内容に従い、株式や資産の移転と、譲渡代金の決済を行います。この際、賞味期限のある製品在庫や原材料の評価と引き渡しタイミングが重要な論点となります。不良在庫の扱いなどを事前に取り決めておくことで、スムーズなクロージングが可能になります。
M&A成立後が本当のスタートです。食品事業のPMIで最も重要なのは、「味・品質」の一貫性を保つことです。仕入れ先の変更や製造プロセスの見直しが品質に影響しないよう、慎重に進める必要があります。また、秘伝のレシピを支える職人など、キーパーソンのモチベーションを維持し、組織に定着してもらうための丁寧なコミュニケーションが、M&Aの成否を分けます。
食品業界のM&Aに関するよくある質問
ここでは、食品業界のM&Aに関して経営者の皆様からよく寄せられる質問にお答えします。
- 工場や店舗が賃貸物件なのですが、M&Aは可能ですか?
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工場や店舗が賃貸物件であってもM&Aは可能です。 株式譲渡の場合は、会社の契約関係はそのまま引き継がれるため、賃貸借契約も買い手に承継されるのが一般的です。
ただし、契約書に「経営権の変更には貸主の承諾が必要」といった条項(チェンジオブコントロール条項)が含まれている場合があるため、事前の確認が必須です。事業譲渡の場合は、改めて貸主と買い手との間で賃貸借契約を結び直す必要があります。いずれの場合も、事前に貸主の理解を得ておくことが円滑なM&Aのポイントとなります。
- 「秘伝のタレ」のようなレシピの価値はどのように評価されますか?
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「秘伝のタレ」のようなレシピは、ブランドやノウハウといった「無形資産(のれん)」として高く評価される可能性があります。 そのレシピが生み出す将来の収益力や、他社が模倣できない独自性が価値の源泉となります。企業価値評価の際には、そのレシピによってどれだけの利益が生まれているかを分析し、価格に反映させます。レシピの管理方法や、その味を再現できる従業員の存在なども評価のポイントになります。
M&Aの専門家は、こうした目に見えない価値を適切に評価するノウハウを持っていますので、一度相談してみることをおすすめします。
信頼できる専門家探しでお悩みなら、「M&A比較ナビ」のようなサービスで複数の仲介会社を比較してみるのも有効な手段です。