事業承継の失敗事例3選|円滑に事業承継するポイントも押さえよう!

目次

事業承継を成功させるためには失敗事例を知ることも重要

事業承継を巡る状況は年々厳しさを増しており、成功させるためには入念な準備が必要といわれています。必要な対策を講じないと具体的にどうなってしまうのか、不安になっている方も多いのではないでしょうか。

事業承継を成功させるためには、何が原因でどのような結果になったのか、他社の失敗事例から学ぶことも大切です。今回は具体的な3つの失敗事例を中心に解説します。

後半では事業承継を成功させるためのポイントも解説するので、事業承継対策の参考にしてください。失敗事例と成功のポイントをしっかりと押さえておけば、漠然とした不安にとらわれることなく、自信を持って必要な対策に取り組んでいけるでしょう。

そもそも事業承継でいう失敗とは?

具体的な事例を見るまえに、事業承継に失敗するとはどういうことなのかを確認しておきましょう。考えられるパターンは主に以下の4つです。

  • 廃業に追い込まれる
  • 離職者が増える
  • 業績が悪化する
  • 資金繰りが厳しくなる

避けるべきは廃業によって技術やノウハウが失われること、そして従業員を失業させてしまうことです。また会社が存続したとしても、大量の離職者が出たり業績が悪化したりすれば、窮地に追い込まれる可能性が高いでしょう。事業承継の失敗からなぜこのような事態になるのか解説します。

廃業に追い込まれる

後継者不在を理由として、自ら廃業を選択する中小企業経営者が増加しています。自分の子供には会社を継ぐ意思がない、優秀な従業員がいても株式を買い取るだけの資金がないといった状況で、やむを得ず事業承継を断念するケースです。

身近に後継者がいない場合は、M&Aで広く事業の買い手を探す手段もあります。しかしM&Aで買い手企業から選ばれるためには、他社には無いような魅力が必要です。企業価値を上げるためには準備期間が必要で、タイムリミットが迫ってからM&Aによる事業承継を検討しても理想的な買い手とマッチングするのは難しいかもしれません。

また無事に後継者へ引き継ぎできても、育成が不十分で経営手腕がなかったり、M&Aによる統合が上手くいかなければ、長期的に見て事業は衰退していくでしょう。

離職者が増える

事業承継の前後は、従業員のフォローが重要です。もし承継後に新たな経営者主導で社内改革が行われた場合、従来のやり方に慣れていた従業員が不満を持って大量に離職する恐れがあります。

多くの中小企業では若い新経営者に交代することで、企業の成長率がアップしたというデータもあります。しかし新しい経営者は意欲や時代に適した経営センスはあっても、経営の経験値が不足しています。そのため従業員のマネジメントが不十分で、こうした離職を招いてしまうのです。

またM&Aによる事業承継を選択した場合は、従業員の労働条件が承継前より悪くなる可能性があります。買い手企業の社員よりも待遇が良くないケースでは、従業員のモチベーション低下を招き、やはり離職に繋がるでしょう。

業績が悪化する

承継後に業績が悪化する要因はさまざまです。

  • 後継者の選定や育成が不十分で経営に必要な素質やスキルが備わっていなかった
  • 他の株主が新経営者に反発して対立し社内に混乱を招いた
  • 従業員に不満が蓄積しモチベーションが低下した

いずれの場合も準備不足による事業承継の失敗例といえるでしょう。また現経営者が事業承継対策にかかりきりになったために、本業の経営が疎かになってしまい、後継者に引き継ぐ頃にはすでに事業が傾いてしまったケースもあります。

事業承継には十分な準備が必要ですが、専門家の力も借りながら、現経営者のキャパシティーを超えてしまわないよう気をつけなくてはなりません。

資金繰りが厳しくなる

業績が悪化すると、次は資金繰りを心配しなくてはなりません。中小企業が事業を維持・発展させていくには、金融機関からの融資が欠かせません。しかし業績不振が続いている場合は融資を受けることが難しいでしょう。

また金融機関の担当者は意外にも、経営者の人格や信用性を重要な判断材料としています。これまで現経営者の存在によって信頼を得ていた場合、事業承継は一つの大きな壁となるでしょう。

現経営者は後継者をしっかりと教育し、金融機関との関係性も引き継いでいけるように努力しなくてはなりません。もちろん金融機関の担当者に不安を抱かせないよう、しっかりと事業を安定させてから引き継ぐことも大切です。

事業承継の失敗事例

事業承継の失敗事例

ここからは具体的な失敗事例を見ていきましょう。実際に他の会社にどのようなトラブルが起きて、その要因は何だったのかを知ることで、事業承継対策の注意点が見えてきます。

ここで紹介するのは3つのケースです。1つは従業員へ事業承継を検討していたケース。2つめは親族内での承継のトラブル。そして準備が何もできていなかったケースです。

それぞれ事前に想定できたトラブルであり、対策をとっていれば避けられたはずの結果になっています。類似のケースは多くの企業で見られるので、一般的な事例として参考にしてください。

従業員の事業承継トラブルで廃業に追い込まれた失敗事例

後継者の選定は非常にデリケートな問題です。ときに後継者として選ばれなかった人物の反発を招いて会社全体を巻き込んだトラブルに発展するケースもあります。

従業員数が10名に満たない小規模企業の事例です。現経営者が最も信頼する従業員に事業を引き継ぎたいと考え、本人を呼び出してオファーしました。しかし周囲に十分注意することなく事業承継の話をしたために、別の社員に会話を聞かれてしまいます。

話を聞いてしまった社員は後継者候補よりも長く勤めていたため、自分が選ばれなかったことに不満を抱きました。その後この社員がさまざまなトラブルや争いを起こすようになり、アットホームだった職場の雰囲気は悪化。後継者候補は嫌がらせを受けて退職し、他の社員数人もそれに続くように辞めてしまったのです。

現経営者はおそらく後継者を指名したことで、他の社員からこれほどの反発が起きると想定していなかったのでしょう。しかし中小規模の企業ほど、人間関係には十分に配慮する必要があります。

親族内での事業承継の失敗事例

親族内で順当に事業を引き継いだように見えても、実は承継後も大きな問題を抱えているケースはあります。特に現経営者が承継後も会長として影響力を持ち続けようと考えている場合は要注意です。

ある企業では、経営者が自分の長男を次期社長に指名しました。しかし実際には長男が社長になったあとも、会社の株式の過半数を自身で保有。経営の決定権は手放さず、長男である社長はすべて会長の意向に従わなくてはなりませんでした。結果的に社長の不満が蓄積して、両者が真っ向から対立することになります。

特に創業者は会社への執着が強く、自身が経営権を握っていたほうが安心できる気持ちもあるのでしょう。しかし事業承継をすると決めた以上、後継者を信じて経営権をしっかりと委譲しなくてはなりません。さもなければ最終的に会社が分裂することにもなりかねないのです。

社長の体調不良で事業承継の準備ができなかった失敗事例

最後に事業承継は、早めの準備が大切だということがよくわかる事例を紹介します。現在は体力気力共に充実している現経営者も、いつ不測の事態で経営不能になるか分かりません。

ある会社では事業承継を考える前に、現経営者が病気で会社の指揮がとれない状態になりました。当座の対処法として親族である役員の一人に代表権だけは委譲しましたが、やがて現経営者と同年代だったその役員も体調不良に。2人とも事業承継対策はおろか通常の会社経営も難しく、事業の存続が困難な状態に追い込まれました。

経営者も50代、60代と年齢を重ねるうちに、病気のリスクが増します。早い段階から若い後継者を選定してしっかりと育成し、もしもの場合に備えるという心構えが必要でしょう。

事業承継を失敗させないためのポイント

事業承継を失敗させないためのポイント

具体的な失敗事例を確認したところで、ここからは事業承継を失敗させないためには何に気をつければいいのかを見ていきましょう。ポイントは主に以下の3つです。

  • できるだけ早く事業承継の準備を進める
  • 事業承継計画表を立ち上げる
  • 財政状況を適正に維持しておく

事業承継はとにかく長期的に取り組むべき課題です。まずは事業承継に十分な時間をかけられるように早めに動き出すこと。そして事業承継後の混乱を防ぐために明確な事業承継計画表を作成すること。また財政状況には常に気を配ることも大切です。それぞれ詳しく解説します。

できるだけ早く事業承継の準備を始める

事業承継にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。後継者の有無など、それぞれの会社の状況によって違いはありますが、おおよそ5年から10年の準備期間が必要といわれています。つまり現経営者が60歳で引退してセカンドライフを楽しみたいと考えるなら、50歳になった時点で事業承継の準備を始めても、決して早すぎることはありません。

事業承継で注意すべきはタイムリミットが迫っていることで焦りが生じ、正常な判断ができなくなることです。特に後継者の選定は余裕を持って取り組む必要があります。またM&Aによる事業承継を選択したときも、買い手先候補が自社の条件を満たす相手かじっくりと見極めなくてはなりません。

先ほども述べたように、現経営者は事業承継だけに集中することはできません。会社経営を疎かにしないためにも、早期に取り組んで少しずつ事業承継計画を進めていけるようにしましょう。

事業承継計画表を立ち上げる

事業承継計画表とは、事業承継後の目標やそのための行動について記したものです。計画表を作成して後継者や従業員と共有しておくことで、承継後に現経営者がいなくてもスムーズに動くことができます。

事業承継は場合により10年ほどの時間がかかります。そのあいだに現経営者に万が一のことがないとは限りません。もし想定外のタイミングで後継者が会社を引き継ぐことになっても、事業承継計画表があれば社内の混乱を避けられるでしょう。

また事業承継計画表は経営理念や事業の中長期的な目標を念頭において、後継者と共に作り上げていくものです。計画表を作成していく過程で、後継者のなかで会社の引継ぎに必要な心構えができることでしょう。

財政状況を適正に維持しておく

後継者は会社の資産だけでなく負債も個人として引き継ぐことになります。そのため後継者が事業承継に不安を抱かないよう、財政状況を安定させておく必要があるでしょう。

一方で贈与や相続といった形で後継者に引き継ぐ場合、事業承継時に株式の評価額を引き下げる工夫も必要です。なぜなら後継者に多額の株式が譲渡されることで、贈与税や相続税の支払い義務が生じるからです。承継後に後継者が税負担によって資金不足に陥ることが無いよう、税理士などに節税対策を相談するのがよいでしょう。

承継後に後継者が事業を円滑に進められるよう、現経営者は会社の財政状況をコントロールし、ベストな状態で引き継ぐことができるようにしましょう。

事業承継を成功させるには専門家への相談も重要

事業承継の失敗事例を中心に、どのような失敗が想定できるか、失敗を避けるためにはどのような点に気をつけるべきか解説しました。

大切なのは早めの対策、そして明確な事業承継計画の立案と、承継時の財政状況を適正に維持することです。現経営者はこれらを心がけることで、一般的な事業承継の失敗のリスクを回避しやすくなるでしょう。

それでも長期的な事業承継対策の中では不安や悩みも出てくると思います。事業承継は基本的に専門家のサポートを受けて進めていくものです。税理士、中小企業診断士、弁護士、会計士など、多くの事業承継を手がけてきたプロのアドバイスを聞くことで、適切な対策ができるでしょう。

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