高齢化や制度改革の影響で、病院の経営環境は年々厳しくなっています。とくに経営者の高齢化や後継者不在は深刻で、事業の継続が難しいケースも増えるなか「病院M&A(合併・買収)」に注目が集まっています。
病院M&Aは、単なる売却ではなく、地域医療や雇用を守る手段です。本記事では、病院M&Aの仕組みや進め方、得られるメリット、実際の事例、価格相場までをわかりやすく解説します。経営の選択肢を広げるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
病院M&Aとは
病院M&Aとは、病院や医療法人を対象とした合併(Merger)や買収(Acquisition)を指します。
経営の安定や事業承継、地域医療の継続を目的として実施されるケースが多くなっています。合併は複数の病院や医療法人が一つの法人に統合され、経営や運営を一本化する方法です。買収は他の医療法人や企業が病院の経営権や事業を取得し、運営を引き継ぐ形となります。
近年は医療体制の再編や人材確保を目的に、病院M&Aの重要性が高まっています。
病院M&Aの特徴
病院M&Aには、一般企業のM&Aとは異なる独自の特徴があります。医療機関ならではの制度や役割が関係するため、進める際には十分な理解が欠かせません。
病院M&Aの特徴は以下のとおりです。
- 「株」ではなく「出資持分」や「事業そのもの」を引き継ぐ
- 行政への申請や許可が大切である
- 利益だけでなく「地域医療への貢献」が求められる
- 経営陣の合意とステークホルダー配慮が必須である
- 医療の専門知識が必要である
以下で、具体的な違いや留意点を項目ごとに解説します。
「株」ではなく「出資持分」や「事業そのもの」を引き継ぐ
病院M&Aでは、一般企業と異なり「株式」を使った取引は行えません。
医療法人は法律上、株式を発行できないため、経営権の移転には「出資持分」や「事業そのもの」の譲渡が用いられます。持分あり医療法人では、出資者が保有する出資持分を譲渡することで経営権が移りますが、出資者全員の同意や行政手続きが必要な場合があります。
事業譲渡は、病院の事業を他法人に移す方法で、柔軟性はあるものの許認可などの手続きが複雑です。ほかにも、法人同士を統合する合併や一部事業を切り離す分割といった方法が用いられます。
いずれの手法も、非営利性を前提とした医療法人制度に基づく点が特徴です。
行政への申請や許可が大切である
病院M&Aでは、行政への申請や許可が重要です。
医療法人は医療法などの法律に基づいて運営されており、合併や事業譲渡、分割などの再編を行うには、国や自治体の許可・届出が必須です。経営主体が変わる場合には、医療機関の開設許可や保険医療機関の指定内容も見直されます。
また、医師や看護師の配置、施設基準などが新しい体制でも満たされているか、行政が細かくチェックします。手続きには時間がかかることもあり、書類の不備や追加対応で遅れるケースも少なくありません。
許可を得ずにM&Aを進めると、最悪の場合は運営停止になる可能性もあります。トラブルを防ぐためには、早めに行政と相談しながら、丁寧に手続きを進めましょう。
利益だけでなく「地域医療への貢献」が求められる
病院M&Aでは、経営効率や利益の追求だけでなく、地域医療への貢献が重要な目的です。
医療法人は非営利が原則であり、利益の分配は法律で禁じられています。たとえ経営権が移っても、地域の医療体制を支え、住民の健康を守る姿勢が求められます。後継者不足や経営難で存続が難しい病院も、M&Aによって診療体制を維持し、医療資源や人材の確保につなげることが可能です。
また、経営の再編にあたっては、患者や地域住民への丁寧な説明と信頼関係の維持も欠かせません。
行政との連携も必要で、M&Aが地域医療に与える影響は厳しく審査されます。利益と同時に、地域医療の継続と質の確保を実現することが、病院M&Aの大きな役割です。
経営陣の合意とステークホルダー配慮が必須である
病院M&Aでは、経営陣の合意と関係者への配慮が欠かせません。
医療法人は理事長や院長に意思決定が集中しており、合意なしに話は進みません。理事会や社員総会での承認が必要な場合もあります。
また、スタッフや患者、地域住民に与える影響も大きく、雇用や医療体制への不安に丁寧に対応することが求められます。行政や取引先との連携も重要です。
配慮が不十分だと、離職や信頼喪失、手続きの遅延につながります。M&Aを円滑に進めるには、早い段階から関係者と向き合い、理解と合意を丁寧に築くことが大切です。
医療の専門知識が必要である
病院M&Aには、医療に関する専門知識が必要です。
医療法人は医療法などの法令に基づいて運営されており、許認可や人員配置、施設基準など、多くの制度を正確に理解する必要があります。
M&A後も診療を安定して継続するには、現場の実態や慣習をふまえた対応が求められます。
医療事故や診療報酬の返還など、業界特有のリスクも多く、事前に法務や運営面を丁寧に調査しておくことが重要です。複雑な課題に対応するには、医療に精通した専門家との連携が成功の鍵となります。
病院M&Aの価格相場と評価方法
病院M&Aの売却価格は、年商を基準に規模別で概ね以下のように設定されます。
規模 | 価格相場 |
---|---|
小規模クリニック | 年商の1〜2倍(例:年商5,000万円→5,000万〜1億円) |
中規模病院 | 年商の2〜3倍(例:年商10億円→20億〜30億円) |
大規模病院 | 年商の3〜5倍(例:年商20億円→60億〜100億円) |
価格は収益性、立地、診療科目、人材の質などで変動します。病院の価値は複数の手法で評価されます。主な方法は次のとおりです。
評価方法 | 詳細 |
---|---|
時価純資産+営業権方式 | 資産と負債の差額にブランド力や集患力などの無形資産価値を加算 |
DCF法 | 将来のキャッシュフローを現在価値に換算して評価 |
EBITDA倍率法 | EBITDAに業界平均の倍率(3〜5倍)をかけて算出 |
市場比較法 | 過去の類似M&A事例を基に相場を参照 |
価格に影響する要素として、財務内容、立地、診療体制、スタッフの定着率、設備の新しさ、許認可の取得状況などがあります。たとえば、年商1億〜2.5億円のクリニックでは、営業利益に応じて1億円以上の譲渡価格となる例もあります。
適正な価格設定には、専門家による評価とアドバイスが不可欠です。価格の妥当性を見極めることで、スムーズなM&A成立が期待できます。
病院M&Aの成功事例
病院M&Aは、後継者不在や経営改善、地域医療の維持など、さまざまな目的で行われています。実際にM&Aを通じて経営基盤の強化や体制の再構築を実現した医療機関も多く、現場のニーズに応じた活用が進んでいます。
具体的な成功事例は以下のとおりです。
以下では、実際の成功事例をもとに、M&Aの成果やプロセスを具体的に紹介します。
メドピアによるクラウドクリニックの株式譲渡
2024年7月1日、メドピア株式会社は子会社クラウドクリニック株式会社の全株式(1,000株)をファストドクター株式会社に譲渡しました。譲渡契約は6月28日に締結されています。
クラウドクリニックは在宅医療事務のアウトソーシングを行う企業で、直近の業績は売上高1億8,300万円、営業損失3,100万円です。メドピアは主力事業への集中を目的に本件を実施。ファストドクターは本譲渡により、在宅医療の支援体制を強化します。
メドピアによるクラウドクリニックの株式譲渡は、事業の選択と集中、医療現場の効率化を同時に実現したM&Aの成功事例といえます。
参考:メドピア株式会社「連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」
医療法人おひさま会とオープングループの業務提携
2024年1月、医療法人おひさま会とオープングループは業務提携を結び、同年3月にホスピタリティパートナーズ株式会社を設立しました。
提携の目的は、医療現場のDX推進や業務効率化、医療従事者の負担軽減です。
新会社では、バックオフィス業務の受託やRPA・AI導入支援、採用・ブランディング支援などを手がけています。これにより、現場の生産性向上と経営基盤の強化が進みました。
本事例は、地域医療とDXの融合により課題解決モデルを構築した、2024年の成功事例といえます。
参考:オープングループ「RPAホールディングスグループ新法人「ホスピタリティパートナーズ株式会社」を3月1日設立」
病院M&Aに強い仲介会社
病院M&Aは、一般企業と異なり医療法や行政手続きなど専門的な知識が求められます。そのため、医療業界に精通した仲介会社を選ぶことが、スムーズな成約やトラブル回避の重要なポイントとなります。
病院M&Aに強い仲介会社は以下のとおりです。
以下では、病院M&Aに強みを持つ仲介会社の特徴や選ばれる理由を紹介します。
各社それぞれ実績やサポート体制に特徴がありますが、自院に最適な仲介会社を選ぶには、複数社の比較検討が不可欠です。
初めてのM&Aで不安がある場合や、「どの会社が自院に一番合っているか分からない」と感じたら、第三者視点で信頼できる仲介会社を紹介してもらえる「M&A比較ナビ」を活用するのが安心です。
CBパートナーズ
会社名 | 株式会社CBパートナーズ |
設立 | 2011年 |
本社所在地 | 東京都港区 |
事業内容 | ・医療・介護・福祉分野に特化したM&A仲介 ・事業承継支援 ・経営コンサルティング |
CBパートナーズは、医療・介護・福祉分野に特化したM&A仲介会社で、累計1,250件以上の成約実績を誇ります。病院やクリニック、調剤薬局など幅広い医療法人のM&Aに対応しており、全国の案件をサポートしています。
CBパートナーズは、着手金・中間報酬が不要の完全成功報酬制と、医療業界経験者による専任アドバイザー制です。初期相談から契約、行政手続き、統合後の運営支援までをワンストップで提供し、医療法や許認可手続きにも精通した体制を整えています。
医療人材紹介大手「CBホールディングス」のネットワークを活用し、買い手・売り手のマッチング力にも強みがあります。利用者からは「専門性が高い」「対応が丁寧」「成約までスムーズ」といった声が多く寄せられており、信頼性の高い仲介会社です。
CBパートナーズの詳細は、以下の記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてください。
M&Aキャピタルパートナーズ
会社名 | M&Aキャピタルパートナーズ株式会社(東証プライム上場) |
設立 | 2005年 |
本社所在地 | 東京都中央区八重洲 |
事業内容 | M&A仲介事業(特に医療・ヘルスケア分野に強み) |
M&Aキャピタルパートナーズは、医療・ヘルスケア分野に強みを持つ東証プライム上場のM&A仲介会社です。累計1,000件以上の医療M&A成約実績があり、病院・クリニック・調剤薬局など多様な医療法人の承継や成長支援を行っています。
2008年に医療専門部署を設置し、2023年には「ヘルスケア業界プロフェッショナルチーム」を新設しており、法務・財務・行政手続きまで一貫して対応できる体制を整えています。地方病院から都市部の大規模法人まで幅広く対応し、全国の案件に対応可能です。
約50,000社の候補ネットワークと、複数提案による比較検討が可能な点も強みです。進捗報告や説明も丁寧で、利用者からは「スピード感」「透明性」が高く評価されています。医療業界大手のエムスリーとの連携実績もあります。
業界では10冠を達成し、国内M&Aランキングにもランクインしており、専門性・実績・信頼性のいずれも備えた病院M&Aにおける有力な仲介会社です。
M&Aキャピタルパートナーズの詳細は、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
株式会社エムズ
会社名 | 株式会社エムズ |
設立 | 2009年(平成21年) |
本社所在地 | 東京都中央区日本橋本町3-8-4 ユニゾ日本橋本町三丁目ビル5階 |
事業内容 | ・病院・クリニック・介護施設など医療機関のM&A仲介 ・医療法人・介護事業者の事業承継コンサルティング ・経営改善・再生支援 ・バリューアップ支援(経営効率化・人材採用等) |
株式会社エムズは、医療・介護業界に特化したM&A仲介会社です。病院・クリニック・介護施設などの事業承継やM&Aを専門とし、地方・都市部を問わず全国の案件に対応可能です。
医療法や診療報酬制度、行政手続きに精通した専門家が在籍しており、実務に強いアドバイスと支援を提供しています。デューデリジェンスから契約・クロージングまで、一貫したサポート体制を整えています。
大手M&A専門機関や銀行との提携により、豊富なネットワークとマッチング力を有しており、売り手・買い手の希望に沿った提案が可能です。
初回相談は無料で、丁寧かつ柔軟な対応も強みのため、病院M&Aの相談先として信頼できる仲介会社です。
株式会社エムズの詳しい情報は、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
病院M&Aの動向と実態
病院M&A動向と実態は、以下の通りです。
以下では、各項目について詳しく解説します。
経営再編・統合が全国で拡大している
近年では、日本の病院は経営が厳しくなっており、一つの病院だけで運営し続けるのが難しいという企業も増えています。
これは、人口が減ったり、少子高齢化が進んでいること、医師や看護師が足りないこと、さらに国からもらえる診療報酬(病院の売上)が厳しくなってきていることなどが原因です。
そのため、大きな医療グループが小さな病院をまとめたり、いくつかの病院同士が力を合わせて一緒にやっていく「再編」や「統合」が全国的に増加傾向にあります。
特に地方や人口が少ない地域では、病院がバラバラにあるよりも、統合して効率よく医療を提供する方がメリットが大きいです。この動きによって、病院同士が協力しやすくなり、地域の医療が守られるようになっています。
異業種・外部プレーヤーの参入も進行している
近年では、病院とは関係のなかったIT企業やコンサルティング会社、製薬会社などが、病院の経営に関わるケースが増えています。
たとえば、電子カルテやオンライン診療のサービスを提供するIT企業が、病院の経営に参画してサポートすることがあります。また、経営改善の専門家であるコンサルティング会社が病院を買収し、運営の立て直しを図るケースも少なくありません。
異業種の参入により、病院には最新の技術や経営ノウハウが導入され、患者へのサービス向上や経営の安定化につながっています。病院業界は今、新たな力を取り入れながら変化しているのです。
後継者探しと経営承継の重要性が拡大している
多くの病院で院長や経営者が高齢になり、「この先、誰が病院を引き継ぐのか」が大きな問題になっています。
昔は、院長の子どもや親族があとを継ぐことが一般的でしたが、今では親族への引き継ぎが難しい傾向にあります。
そのため、家族ではなく、まったく別の人や他の医療法人が病院の経営を引き継ぐ「M&A(事業の売買)」が行われることがほとんどです。引き継ぎによって、病院がなくなるのを防ぎ、地域の患者さんや働く人たちの生活も守れます。
これからの時代は、病院を続けていくために、M&Aを使ったスムーズな「経営のバトンタッチ」がますます大切になっていきます。
病院M&Aの主なスキーム
病院M&Aを進める際には、どのような方法で事業や経営権を引き継ぐかを決める必要があります。この「引き継ぎの方法」を指すのが、M&Aにおけるスキームです。医療法人は一般企業とは異なり、使えるスキームに制限があるため、制度や目的に応じた適切な選択が欠かせません。
病院M&Aの主なスキームは以下のとおりです。
以下では、病院M&Aでよく用いられる代表的なスキームについて解説します。
出資持分譲渡
出資持分譲渡は、持分あり医療法人のM&Aで多く使われるスキームです。
出資者が保有する「出資持分」(社員の地位と財産権)を第三者へ譲渡することで、経営権を移転します。株式会社の株式譲渡に似ていますが、医療法人は株式を発行できないため、この手法が用いられます。
全国の医療法人の約73%が持分あり法人で、法人格やスタッフ、契約関係を維持したまま承継できる点が特徴です。比較的手続きが簡単で、実務でも広く活用されています。
ただし、出資持分の価格が高額になることや、簿外債務の引き継ぎといったリスクには注意が必要です。関係者の同意も欠かせません。実際には、地方の病院やクリニックの承継で多く活用されています。
事業譲渡
事業譲渡は、医療法人の事業の一部または全部を他の法人や個人に引き継ぐM&A手法です。法人そのものではなく、資産や患者、スタッフなどを個別に承継します。
柔軟な承継が可能で、雇用や診療の継続、新規開設の規制回避にもつながります。一方で、行政手続きが多く、許認可の再取得や契約の見直しが必要です。
主に持分なし医療法人や個人クリニックで活用されており、地域医療の維持にも役立っています。
合併
合併は、複数の医療法人を統合し、1つの法人として再編するM&Aスキームです。
資産や負債、契約関係をすべて引き継ぐため、経営の一体化が図れます。方法は、どちらか一方を存続させる「吸収合併」と、新たな法人を設立する「新設合併」です。
手続きには、契約締結や社員総会での承認、行政の認可、登記などが必要で、完了までに1年以上かかることもあります。
医療資源の集約や経営効率の向上、人材の柔軟な配置といったメリットがある一方で、組織文化の違いや負債の承継といったリスクも伴います。地域医療の再編や後継者不在の対応策として、合併は実務上よく使われているスキームの一つです。
分割
分割は、医療法人の事業の一部または全部を他法人や新設法人に承継するM&A手法です。
2015年の法改正で導入され、事業譲渡よりも包括的な承継が可能となりました。
「吸収分割」と「新設分割」の2種類があり、スタッフや契約も一括で引き継げます。対象は出資持分なし医療法人に限られ、認可や債権者保護など煩雑な手続きが必要です。
個別同意が不要で税制優遇も受けられるため、分院承継や地域医療の再編に活用されています。
基金の譲渡
基金の譲渡は、持分なし社団医療法人のうち「基金拠出型法人」で使われるM&Aスキームです。
社員が持つ基金返還請求権を買い手に譲渡し、理事や社員の入れ替えを通じて経営権を移します。
法人格や雇用、契約関係を包括的に引き継げるのが特徴です。譲渡対価は、基金の譲渡益や役員退職金で支払われることが一般的です。
社員総会の承認や税務申告など複数の手続きが必要で、専門家の関与が推奨されます。持分なし法人でも承継可能な、実務的な方法として広く使われています。
病院M&Aのメリット
病院M&Aには、経営の安定や医療体制の強化など、さまざまなメリットがあります。経営者側だけでなく、医療スタッフや地域社会にとってもプラスとなる要素が多くあります。病院M&Aの主なメリットは以下のとおりです。
以下では、病院M&Aによって得られる主なメリットを解説します。
売り手側:後継者問題が解決する
病院M&Aは、売り手にとって後継者不在を解決できる点が大きなメリットです。
帝国データバンクの2024年調査では、病院・クリニックの後継者不在率は61.8%にのぼり、経営者の高齢化も進んでいます。親族内での承継が難しい中、第三者への事業承継としてM&Aを選ぶ動きが広がっています。
日本医師会の調査によると66.5%の医療法人がM&Aを有効な手段と捉えており、実際にM&Aを通じて廃業を回避し、医療サービスの継続や雇用の維持につながった事例も多いです。
病院の存続と地域医療の安定に、M&Aは確かな効果を発揮しています。
売り手側:職員や患者の雇用・診療を継続できる
病院M&Aは、職員の雇用や患者の診療が可能です。
廃業すればスタッフの雇用や地域の医療体制が失われるおそれがありますが、M&Aによって事業を第三者に引き継ぐことで、雇用と診療の継続が可能になります。
とくに出資持分譲渡では、雇用契約がそのまま継続され、再雇用の手続きも不要です。実際に、継続雇用を明記した契約や、離職率の低下につながった事例も報告されています。
また、診療科目や医療サービスの継続により、患者の安心や地域医療の維持にもつながります。M&Aは、病院だけでなく、働く人や通う人を守る手段といえるでしょう。
買い手側:地域医療の強化し、ネットワークを広げられる
病院M&Aは、買い手にとって地域医療の強化とネットワーク拡大につながります。
診療科の拡充や設備投資によって医療サービスの質が向上し、地域の信頼を得やすくなります。
また、複数の病院をグループ化することで、救急や在宅医療の連携が進み、医療体制の強化が可能です。新規開設よりも時間やコストを抑えて新エリアへ展開できる点も利点です。
一括調達や人員支援による経営効率化も実現でき、医療の持続性とグループ全体の競争力を高める効果があります。買い手にとって病院M&Aは、単なる拡大ではなく、地域に根ざした医療の質と安定性を高める戦略的な選択肢といえます。
買い手側:既存の患者やスタッフをそのまま引き継げる
病院M&Aは、買い手にとって既存のスタッフや患者をそのまま引き継げる点がメリットのひとつです。
多くのM&Aでは、雇用や待遇を変更せず継続することが契約に明記されています。とくに出資持分譲渡や合併では、雇用契約が自動的に引き継がれ、再手続きも不要です。
スタッフの雇用維持により離職率が下がり、診療の安定につながった事例もあります。また、患者の9割以上が継続通院しており、診療サービスも維持されています。
人材と地域医療を同時に受け継げる点は、買い手にとって大きな利点です。
病院M&Aのデメリット
病院M&Aには多くのメリットがある一方で、進め方や状況によっては注意すべき課題も存在します。あらかじめリスクや課題を把握しておくことで、対策を講じながら円滑に進めることができます。
病院M&Aの主なデメリットは以下のとおりです。
- 売り手側:経営方針や文化の違いによるトラブルが発生する可能性がある
- 売り手側:スタッフや患者が不安を感じて離職・転院する可能性がある
- 買い手側:隠れたリスクや負債の引き継ぐ可能性がある
- 買い手側:行政の手続きに時間とコストがかかる
以下では、各デメリットについて解説します。
売り手側:経営方針や文化の違いによるトラブルが発生する可能性がある
病院M&Aでは、売り手側にとって経営方針や文化の違いによるトラブルが発生するリスクがあります。
新しい経営陣の方針が現場に合わず、スタッフとの間に摩擦が生じるケースは少なくありません。
病院ごとに根付いた文化や業務の違いが統合を難しくし、職員の士気低下や離職につながることがあります。サービスの変化により、患者や地域住民の信頼を失うリスクもあります。
円滑な統合には、事前のすり合わせと丁寧なコミュニケーションが必要です。
売り手側:スタッフや患者が不安を感じて離職・転院する可能性がある
病院M&Aでは、スタッフや患者が不安を感じて離職・転院するリスクがあります。
厚生労働省の調査では、M&A後に離職率が15〜20%に上昇した事例も報告されています。背景には、新経営陣への不信感や待遇の変化、雇用不安などです。
また、診療体制や担当医の変更により、患者が他院へ転院するケースも少なくありません。日本医師会の調査では、M&A実施後に約30%の医療機関で転院が増えたとされています。
不安を防ぐには、早期の情報共有と信頼関係の維持が重要です。
買い手側:隠れたリスクや負債の引き継ぐ可能性がある
病院M&Aでは、買い手が隠れた負債やリスクを引き継ぐ可能性がある点に留意しましょう。
簿外債務や未払いの診療報酬、退職給付引当金などが、買収後に発覚するケースもあります。
連帯保証が移ることで、買い手の個人資産に影響が出る場合もあります。また、過去の不正請求や法的トラブルによって、多額の返還金や損害賠償を負うリスクもあるため注意が必要です。
設備や建物の老朽化が原因で、想定外の改修費用が発生することもあります。隠れたリスクを防ぐには、専門家による丁寧な調査と契約内容の整備が重要です。
買い手側:行政の手続きに時間とコストがかかる
病院M&Aでは、買い手側に行政手続きの負担がかかる点がデメリットです。
許認可や届出の手続きには半年〜1年以上かかることもあり、特に合併や事業譲渡は長期化しやすい傾向があります。
費用も申請だけで10万〜25万円程度、登記や専門家への依頼を含めると総額で100万円近くになることも珍しくありません。
複数の行政機関への対応が必要なうえ、書類の量も多く、遅延やミスのリスクも高まります。スムーズに進めるには、事前準備と専門家の協力が重要です。
病院M&Aの流れ
病院M&Aを実施する手順は、以下の通りです。
後継者不在や経営者の高齢化、経営難などを抱える医療機関が、検討対象になりやすい傾向があります。
対象の選定では、財務状況や診療体制、地域の医療ニーズ、行政手続きの状況など、複数の視点から総合的に判断します。
候補病院のリストアップ、財務スクリーニング、現地視察などを通じて、実態を丁寧に把握することが重要です。
病院M&Aを円滑に進めるには、早期に専門家へ相談し、チームを組むことが重要です。医療法や税務、行政手続きなどが複雑なため、個人での対応には限界があります。
成功率を高めるには、信頼できる専門家との連携が重要です。
専門家に相談したい方には、「M&A比較ナビ」の活用をおすすめします。
M&A比較ナビなら、仲介会社のトップレイヤーを直接紹介してくれるため、初めてM&Aを実施する方にとって不安を軽減できるでしょう。
交渉を始める前に、秘密保持契約(NDA)を結びます。これは、財務や患者情報などの機密を守るために欠かせません。NDA締結後、売り手は財務・人事などの詳細資料を開示します。
合意が進んだら、譲渡価格や承継スキーム、独占交渉権などを記載した基本合意書(MOU/LOI)を締結します。病院M&Aにおける話し合いは、信頼構築やトラブル防止のために不可欠です。
病院M&Aでは、買い手が売り手の経営実態やリスクを多面的に調査する「デューデリジェンス(DD)」が重要です。隠れた債務や法的問題を把握し、適正な価格や契約条件を見極めるために実施します。
調査内容は、財務・税務・法務・事業・不動産・人事など多岐にわたり、会計士や弁護士などの専門家が分担して進めます。
財務では簿外債務の有無、法務では許認可や訴訟リスク、人事では雇用契約や退職給付債務などが主な確認事項です。
デューデリジェンスの結果をもとに、譲渡価格や承継範囲、雇用体制、引き継ぎ期間、表明保証などの条件を最終調整します。
内容によっては、価格修正や条項の追加が必要になる場合もあります。
条件が固まったら、最終契約書(譲渡契約書・合併契約書など)を作成しましょう。契約書には譲渡対象や価格、秘密保持、競業避止義務、損害賠償、解除条項などを明記します。弁護士や専門家が作成・確認を担当するのが一般的です。
病院M&Aでは、最終契約書に署名・押印することで契約が成立します。「クロージング」は全案件で必須です。
契約後は、資産やスタッフ、患者情報の引き渡しが行われます。不動産や口座の名義変更、行政手続きも含まれ、完了までに1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。
契約の効力は、許認可取得などのクロージング条件を満たしてから発生します。円滑な引き渡しには専門家の支援が不可欠です
病院M&Aでは、医療法や医療法人法に基づく行政手続きが欠かせません。
合併・事業譲渡・分割・開設者変更など、スキームに応じて都道府県知事の認可や厚生局への申請が必要です。
具体的には、開設許可や保険医療機関指定の変更、廃止届、役員変更登記、債権者保護手続きなどを行います。関係機関も多く、書類の準備や審査に数ヶ月かかるケースもあります。
病院M&Aが成立した後は、新体制での運営が円滑に進むよう、適切なサポートが欠かせません。スタッフや患者が安心して移行できるような環境づくりが重要です。
まず、統合後の方針や業務内容をスタッフに丁寧に説明し、研修やOJTを通じて理解を深めます。患者や地域住民に対しても、診療体制の変化などをわかりやすく伝えることが信頼維持につながります。
病院M&Aに関するよくある質問
病院M&Aを検討する際、多くの医療法人や経営者が共通して抱える疑問があります。制度面や費用、進め方、リスクなど、初めてのM&Aでは不安もつきものです。そこで、病院M&Aに関するよくある質問をまとめました。
以下では、病院M&Aの質問に対する回答を紹介します。
Q 病院M&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?
A 病院M&Aにかかる期間は、一般的に半年〜1年程度が目安です。
医療法人は許認可や関係者調整が複雑なため、一般企業よりも時間がかかる傾向にあります。
初期相談から基本合意までは2〜3ヶ月、デューデリジェンスと契約調整にさらに数ヶ月、行政手続きで数ヶ月を要し、クロージングまでを含めると標準で9ヶ月前後です。行政対応や交渉が長引くと、2年以上かかるケースもあります。
厚生労働省の調査でも、全体の約7割が「半年〜1年程度」で完了していると結果が出ていますが、期間短縮のためには早期の専門家に相談するといいでしょう。
Q 病院M&A後、スタッフや患者への影響は?
A 病院M&A後は、スタッフと患者に一定の影響があるため注意が必要です。
スタッフは多くの場合雇用が継続されますが、待遇や方針の変化により一時的に不安や離職が増える傾向があります。丁寧な説明や研修により安心感が高まり、定着率の向上につながります。
患者も基本的に診療は継続されますが、担当医の変更などで不安を抱き転院するケースも少なくありません。継続通院を促すには、事前の説明と信頼関係の維持が重要です。
Q 病院M&Aにはどんな専門家が必要ですか?
A 病院M&Aには、法務・財務・行政に対応できる専門家チームが不可欠です。
弁護士は契約や法的リスク対応、公認会計士・税理士は財務・税務面をサポートします。医療経営コンサルタントは診療報酬や運営実務に精通し、行政書士は許認可の手続きを担います。
また、病院M&Aでは全体を統括するM&A仲介会社も重要です。各専門家の連携が、円滑なM&Aのカギとなります。
数ある専門家の情報をとりまとめ、依頼先選びをスムーズに進めてくれるのが「M&A比較ナビ」です。経験豊富な仲介会社に相談することで、安心してM&Aを進められます。
「どこに相談すればいいかわからない」という方は、まずは複数の仲介会社を比較できるM&A比較ナビを活用してみてください。