不動産の取得方法として、「不動産M&A」の手法が一部の事業者や投資家のあいだで活用されつつあります。
不動産M&Aは、不動産そのものを売買するのではなく、不動産を保有する会社の株式を売買して間接的に不動産を取得する方法です。税コストの軽減や手続きの簡素化などの理由から、特定の場面では不動産売買よりも有利に働くケースもあります。
本記事では、不動産M&Aと不動産売買との違いや利用する際のメリット・デメリットを解説します。今後、不動産の新たな活躍手段として選択肢を広げたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
不動産M&Aと不動産売買の違い
不動産を取得・譲渡する方法としては、「不動産売買」が一般的によく知られていますが、「不動産M&A」という選択肢も存在します。不動産M&Aと不動産売買の違いは以下のとおりです。
どちらも不動産の移転を目的とした手法ですが、それぞれに違いがあるため事前に確認しておくことが重要です。
以下では、不動産M&Aと不動産売買の違いについて解説します。
①取り引きの対象
不動産M&Aと不動産売買では、取引の対象が異なります。
不動産M&Aでは、不動産そのものではなく、不動産を所有する会社の「株式」が取引の対象です。株式を譲渡することで、会社が保有する不動産を間接的に取得する形となり、あわせて会社の資産・負債・契約なども一括して引き継ぐことになります。
一方、不動産売買では「不動産そのもの」が対象で、土地や建物の所有権を直接移転します。不動産単体の売買であり、会社や事業に関する権利義務までは含まれません。
どちらも不動産取得が目的ですが、取引の対象が根本から異なるため、手続きの内容や引き継ぐリスク、税務処理にも違いが生じます。
②税制上の取り扱い
不動産M&Aと不動産売買では、課税の仕組みに違いがあります。
不動産M&Aは株式の譲渡が取引対象となるため、売主には株式譲渡益課税(約20.315%)が課されます。一方、買主には不動産取得税や登録免許税は原則として発生しません。
一方、不動産売買では不動産そのものの所有権が移転するため、売主には譲渡所得課税が発生し、所有期間に応じて税率が異なります。(短期は最大39.63%)
また、買主には不動産取得税(3〜4%)や登録免許税がかかるため、取得時のコストが高くなりやすいため注意が必要です。
不動産M&Aは、含み益のある不動産を所有する法人にとって節税効果が見込めますが、一定の条件を満たすと高税率が適用される例外もあります。税負担の大きさや取引コストに直結するため、税制上の違いは事前に把握しておきましょう。
③買い手の調査対象
不動産M&Aと不動産売買では、買い手が行う調査の範囲が異なるため注意が必要です。
不動産M&Aでは、取得対象が不動産を保有する会社の株式であることから、買い手は会社全体を調査する必要があります。具体的には、不動産だけでなく財務状況や負債、契約関係、訴訟リスク、従業員との雇用契約なども含めて、リスクや実態を総合的に確認する調査(いわゆるデューデリジェンス)が必要です。
一方、不動産売買では、調査対象は不動産そのものに限定されます。土地や建物の権利関係、構造・設備の状態、法令上の制限、管理状況など、不動産単体の価値やリスクを確認すれば足ります。売主の会社の経営状況や法的リスクまで調査する必要はありません。
調査の深度や範囲の違いは、取引にかかるコストやスケジュール、リスク管理の方法に直接影響します。どちらの手法にも慎重な対応が重要です。
④支援機関
不動産M&Aと不動産売買は、関与する支援機関の種類や役割が異なります。
不動産M&Aでは、M&A専門会社やM&A仲介会社、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などが中心となり、スキーム設計や企業価値評価、調査、契約交渉などを一貫して支援します。取引が複雑なため、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家が加わるケースも一般的です。
一方、不動産売買では、不動産仲介業者が主な支援機関となります。売主と買主のマッチング、物件調査、価格査定、契約手続きなど、実務面でのサポートが中心です。宅地建物取引士の資格を持つ担当者が、法令に基づき取引を進めます。
取引の性質に応じて必要な専門性が異なるため、適切な支援機関を選ぶことが、円滑で安全な取引につながります。
⑤手数料
不動産M&Aと不動産売買では、手数料の仕組みにも違いがあります。
不動産M&Aでは、M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)に対して手数料を支払います。法律上の上限はなく、各社が独自に設定しています。レーマン方式と呼ばれる段階的な手数料率が採用され、取引額に応じて5%〜1%の範囲で計算されることが一般的です。さらに、成功報酬のほかに着手金や月額報酬が発生する場合もあります。
一方、不動産売買では、不動産仲介会社に支払う手数料は宅地建物取引業法で厳格に上限が定められています。売買価格に応じた速算法(売買価格×3%+6万円+消費税)が一般的で、費用は成功報酬のみです。
不動産M&Aは費用体系が複雑かつ高額になりやすいため、契約前に内訳を確認しておきましょう。
【2025年】不動産M&Aの事例
2025年時点でも、不動産M&Aは資産の有効活用や事業承継の選択肢として注目されている手法です。とくに不動産を多く保有する法人を対象に、株式を通じて間接的に不動産を取得する事例が増えています。2025年の不動産M&Aの事例は以下のとおりです。
以下では、具体的な不動産M&Aの事例を紹介します。
①旭化成ホームズとTHEグローバル社の業務資本提携
2025年3月、旭化成ホームズ株式会社と株式会社THEグローバル社は業務資本提携を締結しました。旭化成ホームズはTHEグローバル社の普通株式約9.9%にあたる2,795,600株を取得し、同月13日に取得を完了しています。
旭化成ホームズはマンション建替事業に、THEグローバル社は分譲マンションや収益物件の開発が強みです。
本提携では、大規模分譲マンションの共同開発や不動産開発情報の有効活用、コストシナジーの創出を目指しています。両社の協業により、首都圏を中心とした住宅供給の拡大や開発効率の向上が期待されています。今後の業界動向にも影響を与える可能性がある注目の事例です。
②三菱地所によるPatron Capital Partners買収
2025年6月、三菱地所株式会社は英国の不動産ファンド運用会社であるPatron Capital Partnersの過半数株式を取得し、子会社化しました。三菱地所による今回の買収は、欧州における不動産投資マネジメント事業の強化と、グローバルな運用基盤の拡充を目的とした戦略的M&Aです。
Patron Capital Partnersは、欧州17カ国で200件超の投資実績を持ち、約53億ユーロのエクイティを調達してきた実力派ファンド運用会社です。買収後、三菱地所グループの運用資産残高(AUM)は約6.8兆円となり、2030年度末に掲げるAUM10兆円の目標達成に向けて大きく前進しています。
今後は、Patronの既存ファンドやネットワークを活用し、日系を含む幅広い投資家層の獲得や、欧州でのプレゼンス拡大を進める方針です。グローバル展開を加速する注目の大型M&A事例といえるでしょう。
③ヒューリックによる鉱研工業TOB
2025年6月、ヒューリック株式会社は鉱研工業株式会社の完全子会社化を目的に、株式公開買付け(TOB)を実施すると発表しました。買付価格は1株あたり764円で、同日終値に対して約45.5%のプレミアムが付けられています。買付期間は6月17日から7月29日までで、買付予定株数は最大8,424,516株、総額は約64億3,600万円です。
鉱研工業はボーリング機器の開発に強みを持ち、ヒューリックはその掘削技術や施工力を取り込むことで、不動産開発事業とのシナジー強化を図ります。施工・メンテナンス業務や地熱発電関連工事での協業も視野に入れています。
不動産と建設・インフラ技術の融合によるM&Aとして注目されており、今後の事業展開や業界への影響が期待される事例です。
不動産M&Aでおすすめの仲介会社
不動産M&Aを成功させるには、実績と専門性のある仲介会社の支援が欠かせません。取引スキームの設計やリスク対応には高度な知識が求められます。不動産M&Aでおすすめの仲介会社は以下のとおりです。
以下では、不動産M\&Aに強みを持つ仲介会社を紹介します。
①M&Aキャピタルパートナーズ株式会社
サポート内容 | ・事業承継、グループ再編、成長戦略など多様な目的に対応 ・不動産業界を含む幅広い業種で豊富な支援実績 |
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サポート体制 | ・初期相談からクロージングまで一貫して担当 ・企業価値評価、スキーム設計、買い手・売り手マッチング、デューデリジェンス、契約交渉など全工程を支援 |
料金体系 | 相談無料 |
特徴 | ・業界トップクラスのM&A実績 ・複数物件や複雑な権利関係が絡むM&Aも多数実績 ・法務・税務・財務など多角的なリスクチェックが可能 |
URL | https://www.ma-cp.com/ |
本社 | 東京都千代田区丸の内一丁目9番1号 丸の内中央ビル |
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社は、東証プライム市場に上場するM&A仲介会社で、中堅・中小企業を中心に多くの実績を持ちます。
不動産業界にも精通しており、複数物件や複雑な権利関係を含む案件にも柔軟に対応できます。専任アドバイザーが初期相談からクロージングまで一貫して担当し、経営者の意向や状況に応じたきめ細かな提案が可能です。料金体系は完全成功報酬型を採用しており、着手金や月額報酬が発生しない点も安心です。
さらに、弁護士や税理士などの専門家と連携し、法務・財務・税務を含めた総合支援を提供しています。不動産会社の事業承継や再編、成長戦略としてM&Aを検討する経営者にとって、信頼できるパートナーといえます。
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社の詳しい情報は以下の記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてください。
②株式会社ストライク
サポート内容 | ・中堅・中小企業から大手まで幅広い業種・規模のM&Aを支援 ・不動産業界を含む全業種に対応 ・事業承継、グループ再編、成長戦略、開発用地取得など多様なニーズに対応 |
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サポート体制 | ・オンラインでのマッチングや情報提供 ・M&Aに関連する経営課題へのアドバイス |
料金体系 | 相談無料 |
特徴 | ・東証プライム上場の信頼性と透明性 ・初期費用無料・完全成功報酬型でコスト負担が少ない ・全業種・全国対応、不動産M&Aにも豊富な実績 |
URL | https://www.strike.co.jp/ |
本社 | 東京都千代田区大手町1丁目2番1号 三井物産ビル15階 |
株式会社ストライクは、東証プライム市場に上場するM&A仲介会社です。約1,700件以上の成約実績(2022年時点)を持ち、不動産業界を含む幅広い業種に対応しています。
全国8拠点を活かし、地域問わず柔軟に対応できる点も強みです。不動産M&Aでは、複雑な権利関係や法務・税務リスクにも対応可能で、専門知識を持つアドバイザーが一貫してサポートします。
料金体系は初期費用無料の完全成功報酬型で、中間報酬や成功報酬も明確に設定されています。譲渡金額ベースで手数料が決まるため、債務が多い場合でも費用が過度に膨らみにくい点が特徴です。
不動産会社の事業承継や再編を検討する経営者にとって、有力な相談先のひとつです。
株式会社ストライクの詳しい情報は以下の記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてください。
③株式会社M&A総合研究所
サポート内容 | ・AIマッチングによる買手・売手の最適マッチング ・専任アドバイザーによる一貫サポート ・不動産業界を含む幅広い業種のM&Aを支援 |
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サポート体制 | ・全国の案件に対応 ・AI・データ活用による効率化 ・ワンストップ対応 |
料金体系 | 相談無料 |
特徴 | ・完全成功報酬制・初期費用ゼロ ・AI活用による迅速なマッチング ・上場企業の信頼性と全国対応力 |
URL | https://masouken.com/ |
本社 | 東京都千代田区丸の内1-8-1 丸の内トラストタワーN館 |
株式会社M&A総合研究所は、東証プライム市場に上場するM&A仲介会社です。
着手金や月額報酬、中間報酬が不要な完全成功報酬制を採用し、コストを抑えて利用できます。独自のAIマッチングシステムと企業データベースを活用し、最短49日・平均約7カ月でのスピード成約を実現しています。
不動産業界にも対応しており、事業承継やグループ再編、開発用地取得など幅広いニーズに応じた支援が可能です。専任のアドバイザーが一貫して対応し、法務・税務を含むリスクにも専門家ネットワークと連携して対応します。
売上1億〜100億円規模の中堅・中小企業に実績が豊富で、スピード・コスト・安全性を重視する経営者にとって有力な選択肢です。
株式会社M&A総合研究所の詳しい情報は以下の記事で詳しく解説しているので、併せて参考にしてください。
不動産M&Aのスキーム
不動産M&Aでは、目的や状況に応じてさまざまなスキームが用いられます。代表的なものには、株式譲渡や会社分割などがあり、事前にそれぞれの特徴やリスクを理解することが重要です。以下では、主なスキームの概要と使い分けのポイントを紹介します。
株式譲渡
株式譲渡は、不動産を所有する企業の株式を取得し、不動産を間接的に取得するM&Aスキームです。
企業ごと買収するため、不動産だけでなく、契約・負債・従業員など会社全体の権利義務を引き継ぎます。個別の資産移転手続きが不要で、比較的スムーズに進められるのが特徴です。不動産取得税や登録免許税が原則発生しない点もメリットです。
一方で、簿外債務や訴訟などのリスクも承継するため、事前の調査が重要です。取得後の経営方針や不要事業の整理も検討する必要があります。不動産M&Aでは最も一般的で、実務でも広く使われている手法です。
新設分割
新設分割は、企業が保有する不動産を含む事業を切り出し、新たに設立した会社に承継させるM&Aスキームです。
買い手は新設会社の株式を取得することで、不動産を間接的に取得します。不動産に関係する資産・負債・契約などをまとめて承継でき、不要な事業やリスクを切り離せるのが特長です。
なかでも「分割型新設分割」は税制優遇の要件を満たしやすく、不動産M&Aでよく使われています。対価は株式のため現金負担がなく、事業承継やグループ再編にも適しています。一方で、分割計画や株主総会決議などの手続きが複雑で、許認可の再取得や税制適格要件の確認も必要です。
不動産だけを効率よく譲渡したい場合に有効ですが、実行には専門家の関与が欠かせません。
不動産M&Aのメリット
不動産M&Aは通常の不動産売買と異なり、手続きや税制、リスク管理の面で独自の利点があります。適切なスキームを選ぶには、メリットを正しく理解しておくことが重要です。主なメリットは以下のとおりです。
以下では、不動産M&Aを活用する上での主なメリットを紹介します。
売り手側:節税効果が高い
不動産M&Aにおける売り手側の大きなメリットは、節税効果の高さです。通常の不動産売却では、法人税が約30〜40%課され、さらに配当や退職金によって経営者個人にも課税されるため、手取りは大きく減少します。
一方、不動産M&Aでは、不動産を所有する会社の株式を譲渡するため、課税対象は株式譲渡益となり、税率は一律20.315%です。
そのため、税負担を抑えやすく、手取りが2倍近くに増えるケースもあります。さらに、廃業コストの回避や相続・資産整理にも活用できる点も魅力です。節税効果を最大限に活かすには、早めに専門家へ相談することが重要です。
売り手側:廃業コストの削減ができる
不動産M&Aを活用すれば、売り手は廃業に伴うコストや手間を大幅に削減できます。
通常の廃業では、不動産の処分費用、従業員の解雇費用、契約解除や債務整理に伴う支出、清算手続きの費用などが発生します。
一方、株式譲渡によるM&Aでは会社が存続するため、不動産の処分費用や清算手続き、契約解除に伴うコストなどが発生しません。従業員や契約も会社ごと引き継がれるため、解雇手当や違約金も発生しません。債務や未払い金も包括的に承継されるため、個別の精算も不要です。
手間のかかる対応を避けられることで、経営者の精神的な負担も軽減されます。
買い手側:不動産取得税や登記費用などのコスト削減ができる
不動産M&Aでは、不動産を所有する会社の株式を取得するため、取得関連コストを大幅に抑えられます。
不動産の所有名義は変わらないため、通常の取引で発生する不動産取得税(3〜4%)や登録免許税(2%前後)は原則不要です。所有権移転登記も不要となり、登記手続きや印紙税、手数料なども軽減されます。
物件価格が高額になるほど削減効果は大きく、数千万円単位のコストを抑えられるケースもあります。ただし、会社ごと取得するため、他の資産や負債も引き継ぐ点には注意が必要です。取得コストを抑えつつ不動産を手に入れたい買い手にとって、有効な手法といえます。
買い手側:割安で取得できる可能性がある
不動産M&Aでは、通常よりも割安に不動産を取得できる可能性があります。
株式譲渡を活用すれば、売り手の税負担が軽くなり、その分が価格に反映されやすくなります。不動産取得税や登記費用もかからず、買い手の総コストを抑えられる点もメリットの一つです。
さらに、市場に出回らない自社ビルや事業用不動産を取得できる場合もあり、競合が少ない分、価格交渉を有利に進めやすくなります。売り手が資産整理や事業承継を目的とするケースでは、価格面で柔軟な対応が期待できるため、割安で取得できる可能性が高まります。とくに複数物件や高額物件を含むM&Aでは、割安取得の効果がより大きくなります。
取得コストを抑えつつ優良な物件を手に入れたい買い手にとって、不動産M&Aは有力な選択肢となります。
不動産M&Aのデメリット
不動産M&Aには多くのメリットがありますが、すべてのケースに適しているとは限りません。会社ごと取得する特性上、リスクや手続き面での注意点もあります。適切に活用するには、デメリットや注意点を正しく理解しておくことが重要です。主なデメリットは以下のとおりです。
以下では、不動産M&Aにおける主なデメリットを紹介します。
売り手側:手続きや成約までに時間と手間がかかる
不動産M&Aは、従来の不動産売買に比べて、売り手に時間と手間がかかる点がデメリットです。
取引対象が会社全体となるため、株式譲渡や会社分割などの複雑な手続きが関わります。買い手によるデューデリジェンスでは、財務・法務・税務・不動産に関する詳細な調査が行われ、売り手は資料の準備や説明対応を求められます。
契約交渉や条件調整、社内の承認手続き、関係者への説明も必要です。さらに、弁護士や会計士など専門家との連携も発生し、確認作業が増えます。その結果、成約までに数ヶ月〜1年以上かかるケースもあります。
情報漏洩や途中の破談リスクもあるため、早期の準備と専門家の関与が重要です。
不動産M&Aでは、売り手にも仲介手数料や専門家報酬などのコストが発生します。
売り手側:仲介手数料等のコストが発生する
M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザーを利用するため、通常の不動産売買より費用がかかる傾向があります。手数料は取引金額の数%を基準とするレーマン方式が一般的で、高額になるケースも少なくありません。
仲介会社によっては、着手金や月額報酬、中間報酬が発生する場合もあります。また、契約や調査に関わる弁護士・会計士・税理士への報酬も加算され、総コストが膨らむ要因です。物件価格が高いほど費用負担も増すため、事前に費用体系を確認し、複数社から見積もりを取ることが重要です。
コストは売却益に直結するため、慎重な判断が求められます。
買い手側:簿外債務や隠れたリスクを引き継ぐ可能性がある
不動産M&Aでは、買い手が不動産を所有する会社の株式を取得するため、会社全体の資産や負債、契約関係も一括して引き継ぎます。
そこで問題となるのが、帳簿に記載されていない簿外債務や、訴訟・税務・契約上の隠れたリスクを承継する可能性がある点です。未記載の借入金や保証債務、過去の契約違反による損害賠償、税務調査による追徴課税などが代表例です。
簿外債務や隠れたリスクは、契約締結後に発覚することもあり、トラブルに発展するおそれがあります。事前のデューデリジェンスで把握できないリスクもあるため、契約書には表明保証や補償条項を盛り込む必要があります。
リスクを正しく把握し、適切に備えることが、安全な取引のために欠かせません。
買い手側:不動産売買より多くの時間・手間がかかる
不動産M&Aは、通常の不動産売買よりも買い手側の手間や時間的負担が大きくなりやすい取引です。
対象が不動産そのものではなく、会社全体となるため、関係者の調整や専門家との連携が必須となります。財務・法務・税務・人事を含むデューデリジェンスには多くの資料収集と確認作業が伴い、契約交渉も複雑になりがちです。
社内外の承認手続きや説明対応も加わり、成約までに数ヶ月〜1年以上を要するケースもあります。情報漏洩リスクや従業員対応といった追加の課題も発生するため、通常の売買よりもプロセス全体が煩雑です。
円滑に進めるには、初期段階からの計画と専門家の支援が重要なポイントです。
不動産業界でM&Aを実施するポイント・注意点(売り手側)
不動産業界でM&Aを検討する売り手にとって、スムーズな成約を実現するには事前準備とリスク把握が不可欠です。資産の整理や財務・法務面の見直しを行い、買い手からの信頼を得る体制を整える必要があります。不動産業界でM&Aを実施する売り手側のポイント・注意点は以下のとおりです。
以下では、売却時に意識したいポイントと注意点を紹介します。
①手続きに手間がかかる
不動産M&Aは会社単位の取引となるため、売り手にとって手続きや調整に多くの時間と労力がかかります。買い手による財務・法務・不動産などの調査に対応するには、大量の資料準備や説明が必要です。
さらに契約条件の交渉や取締役会・株主総会での承認、従業員や取引先への説明も求められます。弁護士や会計士など専門家との連携も欠かせず、確認作業が重なります。成約まで半年以上かかることもあり、途中で破談となる可能性もあるため注意が必要です。
スムーズに進めるには、早めの準備と専門家の支援が重要です。
②買い手を探すのに時間を要する
不動産M&Aでは、適切な買い手を見つけるまでに時間がかかる点に注意が必要です。単なる不動産取得ではなく、会社ごと承継できる相手を探す必要があるため、候補の母数が限られます。
条件に合う相手を非公開で選定し、交渉や調査を重ねるため、成約までに半年〜1年かかることも少なくありません。買い手は企業全体のリスクも引き継ぐため、意思決定にも時間を要します。
早期に売却を進めたい場合は、仲介会社の活用や余裕あるスケジュール設計が有効です。
買い手探しの手間をなくしたい方は、「M&A比較ナビ」の利用がおすすめです。
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③情報漏えいリスクへの対応が必要である
不動産M&Aでは、財務情報や契約内容、不動産の評価資料など多くの機密情報を扱うため、情報漏えいリスクへの対応が不可欠です。
社内外に情報が漏れると、従業員の動揺や取引先の信用不安、競合他社への流出などのリスクが生じます。秘密保持契約の締結や情報開示の段階的運用、関係者のアクセス制限、ITセキュリティの強化が重要です。
情報管理体制を整え、関係者への教育を徹底することで、安全なM&Aを進めやすくなります。
不動産業界でM&Aを実施するポイント・注意点(買い手側)
不動産業界でM&Aを行う際、買い手側には特有のリスクや確認すべき事項が多くあります。会社全体を承継する取引となるため、不動産だけでなく、財務状況や契約内容、組織体制など多方面からの慎重な検討が必要です。不動産業界でM&Aを実施する買い手側のポイント・注意点は以下のとおりです。
以下では、買い手側が注意すべき主なポイントについて解説します。
①デューデリジェンス(買収監査)を徹底する
不動産業界でM\&Aを実施する際、買い手側にはデューデリジェンスの徹底が欠かせません。
対象会社の財務状況や不動産の権利関係、契約内容、法令遵守の有無などを多角的に調査することで、買収後に発覚するリスクを最小限に抑えられます。帳簿に現れない債務や訴訟リスクの把握にもつながり、価格や契約条件の適正な交渉材料としても機能します。
専門家と連携しながら調査を進めることが、安全で納得のいくM&Aにつながるでしょう。
②M&Aの目的・戦略を明確にする
不動産M&Aを成功させるには、買収の目的や戦略を明確にしておくことが重要です。
事業領域の拡大や収益基盤の強化、既存事業とのシナジー獲得など、目的に応じて選ぶべき買収先や評価すべきポイントが変わります。戦略が明確であれば、デューデリジェンスの方向性も定まり、買収後の統合計画も立てやすくなります。
社内での意思統一や社外への説明も円滑になり、M&A全体の精度と成功率が高まるでしょう。
③不動産そのもののリスク調査を事前に調べる
不動産M&Aでは、対象会社が保有する不動産そのものに関するリスク調査を事前に徹底することが重要です。
所有権や抵当権などの権利関係、建築基準や用途地域の法令遵守状況、老朽化や土壌汚染といった物理・環境面のリスクまで、幅広い観点から確認する必要があります。賃貸契約の内容や空室率、災害リスクの評価も欠かせません。必要に応じて、不動産鑑定士や建築士など専門家の意見を取り入れることも大切です。
調査結果は契約条件や価格交渉に反映され、買収後のトラブルや損失を防ぐ基盤となります。入念なリスク調査が、安心して進められるM&Aの鍵となります。
不動産M&Aと宅建業法の関係性
不動産M&Aは、株式譲渡を通じて不動産を間接的に取得する取引であり、宅建業法との関係を理解しておくことが重要です。
株式譲渡であれば、会社自体が存続するため宅建業免許も有効に継続されます。一方、事業譲渡の場合は免許の引き継ぎができず、買い手が新たに免許を取得する必要があります。
不動産M&Aは、宅建業法の直接的な規制を受けないケースもありますが、取引の実態やスキームによっては法的対応が求められます。
スムーズなM&Aを実現するためには、宅建業法の趣旨を踏まえた準備と、専門家のサポートが欠かせません。
不動産業界のM&Aに関するよくある質問
不動産業界のM&Aに関する疑問や不安を抱える方も多くいます。手続きの流れや費用、リスクへの対応、宅建業免許の扱いなど、専門的な内容も含まれるため、正確な理解が重要です。そこで、よくある質問をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。
Q 不動産M&Aの平均的な期間はどれくらいですか?
A 不動産M&Aの平均的な期間は約半年程度です。
M&A総合研究所の実績でも「最短49日、平均7.0ヶ月」とされています。
秘密保持契約から基本合意、デューデリジェンス、契約締結まで複数の工程があるため、通常の不動産売買よりも時間がかかります。とくに不動産の権利関係や会社全体のリスク調査が必要なため、案件によっては1年近く要することもあります。
そのため、事前に余裕を持ったスケジュールを組んでおくことが大切です。
Q 不動産M&Aの評価方法は?
A 不動産M&Aでは、会社全体の企業価値を多角的に評価することが重要です。
主な手法は、資産と負債を時価で評価する「時価純資産法」、将来の収益を基に算出する「インカムアプローチ」、市場取引を参考にする「マーケットアプローチ」の3つです。
不動産を多く保有する企業では、含み益や簿外債務を反映した時価純資産法が使われます。不動産の権利関係や環境リスクなども調査し、無形資産や収益性も含めて総合的に判断することがM&A成功につながるでしょう。
ただし、正しく評価するにはM&Aの専門家に相談するのがおすすめです。
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