学習塾のM&Aとは?価格相場や成功事例や注意点まで徹底解説

「生徒募集に苦戦している」
「教室運営に限界を感じている」

この記事では、学習塾のM&Aに関する基本知識から価格相場、実際の成功事例、進め方の注意点まで、経営者の視点に立ってわかりやすく解説します。

目次

学習塾のM&Aとは

学習塾のM&Aとは、他の企業や投資家が学習塾の経営を引き継ぐ取引のことです。株式や事業の譲渡、合併、資本提携などの方法があり、少子化やオンライン化、後継者不足といった課題への対応策として注目されています。

2023年度の学習塾市場は約1兆4,976億円と推計されており、特に中小規模の塾を中心に、M&Aを活用した事業承継や経営改善の動きが広がっています。

学習塾のM&Aの目的は、主に以下の4つに分けられます。

  • 事業承継型:経営者の高齢化などにより後継者が見つからず、M&Aによって塾を存続させるパターン
  • 市場拡大・エリア戦略型:他地域の塾を買収して、より広いエリアで展開する戦略
  • シナジー追求型:個別指導塾と集団指導塾、または異業種のサービスと統合して、より多様な教育スタイルを提供する目的
  • デジタル技術強化型:ICT教材やAIを活用したオンライン授業などを導入し、デジタル化を進めるための提携

このように、M&Aは塾の「終わり」ではなく、「次の成長」につなげる手段として注目を集めています。

学習塾のM&Aと他業界の違い

学習塾のM&Aは、製造業やIT業界とは異なり、「講師」「生徒」「教室の賃貸契約」などの人や関係性が価値の中心となります。そのため、評価の指標(EV/EBITDA)は約5.6倍と、IT業界(10〜30倍)や全業界平均(8〜10倍)より低めです。

取引方法は、小規模塾では事業譲渡、法人全体では株式譲渡が主流です。ただし、講師の雇用契約や、生徒の前払い月謝の扱いが重要なポイントとなり、再契約などの手続きが必要になることもあります。

買い手は、大手教育会社やEdTech企業、不動産・金融系などさまざまです。M&A後の運営では、講師の引き留めや保護者への説明会など、人への丁寧な対応が欠かせません。

このように、学習塾のM&Aは「人的資本」「顧客ストック」「教室契約」といった要素を重視した、専門的な対応が求められる取引です。

学習塾のM&Aの価格相場

学習塾のM&A価格は、生徒数や教室数、講師の体制などによって大きく変わります。

個人経営の小規模塾では、アルバイト講師が中心で教室も賃貸が多く、売却価格は500万円〜1,000万円未満が一般的です。生徒数100名前後の中規模塾では、1,000万円〜3,000万円程度で取引されるケースがよく見られます。

さらに、売上が1億円規模の多教室展開塾では、ブランド力や進学実績が評価され、数千万円〜数億円になることもあります。

評価方法としては、安定収益をもとに計算する「収益還元法」や「EV/EBITDA倍率(平均5.6倍)」がよく使われます。そのほか、資産やブランドを評価する「時価純資産法」や「DCF法」も用いられます。

実際の価格には、講師の質や前受け月謝、生徒の在籍数、立地や合格実績などが大きく影響します。適正な評価には、事前の情報整理と専門家のサポートが欠かせません。

学習塾のM&Aの事例

学習塾のM&Aは、規模や地域、指導形態、引き継ぎ方針によってパターンが大きく異なります。

特に中小規模の塾では、経営基盤の安定やサービス強化を目的とした取引が増えており、成功事例から学べるポイントも少なくありません。

学習塾のM&Aの成功事例は、以下のとおりです。

以下では、学習塾のM&Aで実際に行われた事例を取り上げ、今後の参考となる流れや特徴を見ていきます。

事例1. ベネッセホールディングスによるミネルヴァインテリジェンス子会社化

2014年11月、ベネッセホールディングス(ベネッセHD)は、子ども向け英会話教室「こども英会話のミネルヴァ」を運営するミネルヴァインテリジェンスの全株式を取得し、完全子会社化しました。取引は株式譲渡によるもので、金額は非公表ですが、十数億円規模と報じられています。

ミネルヴァは首都圏や関西圏を中心に約400教室を展開し、約2万3,000人の受講生が在籍する大手スクールです。ベネッセHDはすでに1,400教室規模の英会話教室を運営しており、ベルリッツ・ジャパンも傘下に抱えています。

このM&Aにより、教材や講師ノウハウ、教室ネットワークを統合し、地域ごとのサービス強化と市場シェア拡大を図りました。背景には、英語教育改革や小学校での英語必修化の動きがありました。

結果として、グループの教室数は約1,800に拡大し、子ども向け英語教育分野でのプレゼンスが大きく向上しました。

事例2. ナガセによるダンロップスポーツウェルネス株式取得

2024年9月、教育事業大手のナガセは、フィットネスジムやスイミングスクールを運営するダンロップスポーツウェルネス(DSW)の全株式を取得し、完全子会社化することを決定しました。買収額は約4億1,000万円です。

ナガセはこれまで、東進ハイスクールや四谷大塚、イトマンスイミングスクールなどを展開し、「心・知・体」のトータル育成に力を入れてきました。今回のM&Aにより、運動を通じた身体面のサービスをさらに強化し、教育とスポーツを組み合わせた総合型プラットフォームを構築します。

今後はDSWの理念とナガセの教育ノウハウを融合し、地域に応じたプログラムの開発や顧客満足度の向上に取り組む予定です。DSWは2024年12月に「イトマンスポーツウェルネス」へ社名変更し、グループ連携を強化していきます。

教育業界による異業種買収の事例として、今後の展開にも注目が集まっています。

事例3. 早稲田アカデミーの個別進学館吸収合併

2022年3月、早稲田アカデミーは、完全子会社である個別進学館を吸収合併しました。この合併は、2021年11月に早稲田アカデミーが個別進学館の株式を取得し、100%子会社化したうえで、事業の運営をよりスムーズに進めるために行われたものです。

目的は、意思決定をスピーディにしつつ、集団指導を行う早稲田アカデミー本体と個別進学館との連携を深めることでした。合併後は、カリキュラム開発や講師採用を一本化し、コスト削減と指導力の強化を実現。集団と個別、両方の指導スタイルを活かしたサービス展開が可能となりました。

合併は、親会社が子会社を取り込む「吸収合併」という形式で、株の発行やお金のやり取りを伴わない簡易的な手続きで実施されました。

今回の合併は、連結決算への影響は小さいものの、組織運営の効率化と個別指導分野での競争力強化につながる施策として注目されています。

学習塾のM&Aにおすすめの仲介会社・サービス

学習塾のM&Aを検討する際、信頼できる仲介会社や専門サービスを選ぶことは、スムーズな取引と納得のいく条件を実現するうえで欠かせません。

とくに、学習塾ならではの事情に精通したサポートを受けられるかどうかが、成功の分かれ道になることもあります。

学習塾のM&Aにおすすめの仲介会社・サービスは、以下のとおりです。

以下では、学習塾のM&Aに強みを持つ仲介会社や、活用しやすい専門サービスをご紹介します。

どこに相談すればよいか迷っている方には、複数の仲介会社をまとめて比較できる「M&A比較ナビ」の活用もおすすめです。

>>(無料)M&A比較ナビに相談する

M&Aサクシード

出典:M&Aサクシード
会社情報詳細
サポート内容・匿名掲載(事業情報報告)
・買い手候補からのオファー受信~競売応答
・交渉リクエスト管理
・契約書ドラフト作成支援
・成約サポート(書類準備・調整)
サポート体制・審査制法人会員のみ利用可
・専任担当者による成約まで一貫サポート
・オンラインシステム上での全プロセス実行
・PMI支援は別途アドバイザリーで対応
料金体系売り手:譲渡対価の5% 最低報酬額1,000万円
買い手:譲渡金額の2.0% 最低金額200万円(基本料金無料)
特徴・法人限定・審査制プラットフォーム
・匿名掲載によるプライバシー保護
・オンライン完結&最短37日成約実績
・審査制による質の高いマッチング
・累計受託企業数10,000社突破(2024年10月)
運営会社株式会社M&Aサクシード
(Visionalグループ)
URLhttps://ma-succeed.jp/

M&Aサクシードは、Visionalグループ傘下の株式会社M&Aサクシードが運営する法人限定・審査制のM&Aマッチングプラットフォームです。売り手は登録から成約まで完全無料(着手金・中間金なし)で会社名を伏せた匿名掲載を利用でき、すべてオンラインで完結します。

買い手は成約時に譲受価格の2.0%(最低200万円)の成功報酬を支払い、売り手側にも譲渡対価の5%(最低1,000万円)の成功報酬がかかります。登録法人は約10,000社以上、最短37日での成約事例もあります。

また、在籍生徒数や月謝の前受け、講師の雇用形態、許認可の状況など、学習塾特有の情報も匿名資料に登録できるため、売り手は安心して条件提示が可能です。

コストや手間を抑えて事業承継や拡大を目指したい学習塾オーナーにとって、使いやすく信頼できるサービスと言えるでしょう。

>>M&Aサクシードの公式サイトを見てみる

M&Aサクシードについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

セカチャレ

出典:セカチャレ
会社情報詳細
サポート内容・匿名掲載による事業情報登録
・買い手候補からのオファー受信・質疑応答管理
・交渉リクエスト管理
・契約書ドラフト作成支援
・成約サポート(書類準備・日程調整等)
サポート体制・学習塾業界出身の専任アドバイザーによる個別ヒアリング~マッチング代行
・オンラインシステム上での全プロセス実行
・「のべ400件以上」のサポート実績
料金体系売り手:
・譲渡金300万円までは手数料無料
・譲渡金に応じた所定手数料(詳細は要問合せ)

買い手:
・手数料体系の詳細は要問合せ
特徴・学習塾専門のM&A仲介サービス
・幅広い教室規模に対応可能(生徒数0名~数百名)
・業界経験10年以上、塾経営とM&Aの双方経験者が支援
・審査制による質の高いマッチング
・平均「3~4ヶ月程度」での成約実績
運営会社株式会社インフィニティライフ
(学習塾M&A事業部)
URLhttps://juku-ma.com/

セカチャレは、元塾経営者が立ち上げたインフィニティライフが運営する、学習塾に特化したM&A仲介サービスです。売り手は譲渡金300万円まで無料、買い手も成功報酬のみという明確な料金体系が特長です。

個人塾から中堅規模の塾まで幅広く対応し、事業譲渡・株式譲渡のいずれにも対応可能。独自のヒアリングシートで、生徒数や講師体制、前受け月謝など塾特有のポイントを丁寧に整理します。

契約書の作成や交渉代行、統合後の業務改善支援までワンストップで対応しているため、初めてM&Aを検討する塾経営者にも安心のサービスです。

>>セカチャレの公式サイトを見てみる

船井総合研究所

出典:船井総合研究所
会社情報詳細
サポート内容・企業価値向上のためのM&A戦略立案
・適切な買い手・売り手マッチング
・交渉支援および契約書ドラフト作成支援
・デューデリジェンス(財務・法務・労務)支援
・クロージング(成約)サポート
・M&A成立後の業績向上策提案(PMI支援)
サポート体制・学習塾・スクール業界専門コンサルタントとM&A専門コンサルタントのタッグ体制
・30年以上の業界コンサル実績を持つ専門チームによるハンズオン支援
・全国の金融機関・士業ネットワークとの連携による買い手候補紹介
・オンライン/対面での相談・進行管理
料金体系売り手:成功報酬のみ
買い手:中間金+成功報酬
・最低手数料:1,000万円
特徴・学習塾・スクールに特化したM&Aソリューション
・業界固有の「講師雇用契約」「年度合算」「賃貸契約」の論点整理に強み
・効果的なプロセス設計で事業承継と成長戦略を両立
・Win-Winを追求する「成長の手段」としてのM&A提案アプローチ
運営会社株式会社船井総合研究所
URLhttps://www.funaisoken.co.jp/

船井総合研究所(船井総研)は、50年以上にわたり中小企業の経営支援を行ってきた実績を持つコンサルティング会社です。学習塾・スクール業界に特化したM&A仲介サービスを展開しており、業界特有の課題に対応した手厚いサポートが特長です。

「売却ありき」ではなく、企業成長の手段としてM&Aを提案し、講師の雇用契約や生徒台帳、教室の賃貸契約など、重要な論点を事前に整理。トラブルを防ぎながら企業価値の最大化を目指します。

買い手の選定から契約支援、M&A後の組織づくりや業務改善まで、ワンストップで対応しています。後継者不足や地域再編に悩む塾経営者にとって、安心して相談できるパートナーです。

>>船井総合研究所の公式サイトを見てみる

学習塾のM&Aの動向

2025年現在、少子化や後継者不足を背景に、学習塾のM&Aが急速に広がっています。特に中小規模の個人塾では、黒字でも後継者不在で廃業せざるを得ないケースが増えており、M&Aは事業承継の有力な手段となっています。

大手教育グループは、地域に強みを持つ教室や講師ノウハウを求めて買収を加速させており、EdTech企業もAIやオンライン学習の導入を目的に統合を進めています。異業種からの教育分野への参入も活発化しており、市場全体の動きは活発です。

取引額は小規模塾で1,000万〜3,000万円、大規模塾では数億円に達することもあります。M&Aによって、売り手は後継者問題の解消や利益確保、買い手はネットワーク拡大やDX推進といったメリットが得られます。

今後は地方や小規模塾の集約がさらに進み、AIを活用したオンライン指導の普及や異業種の参入が、学習塾市場の再編と成長を後押しすると見込まれます。

学習塾のM&Aのスキーム

学習塾のM&Aを進めるうえでは、どのような方法(スキーム)で事業を引き継ぐかを検討することが重要です。選ぶスキームによって、手続きの手間や引き継げる契約、税務上の扱いなどが大きく異なります。

以下では、学習塾のM&Aで用いられる主なスキームと、それぞれの特徴についてわかりやすくご紹介します。

株式譲渡

企業の発行済株式を譲受企業が取得し、売り手は保有する議決権を売却対価として現金等で受領します。

株主構成が変わるだけで事業・資産・契約関係を丸ごと承継できるため、手続きが比較的簡易で即時的に経営権移転が可能です。ただし、簿外債務や不採算部門もそのまま引き継がれるリスクがあるため注意が必要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社が持つ事業の一部または全部を、他の会社に売却する方法です。

たとえば、教室や生徒、講師との契約など、必要な資産や営業権だけを選んで引き継ぐことができます。

売り手側は残したい事業や従業員を選んで分けられるため、後継者の育成や赤字部門の切り離しにも使いやすいのが特長です。ただし、契約や許認可は一つひとつ移し替える必要があり、手続きには手間がかかります。

合併

合併とは、複数の会社をひとつにまとめる組織再編の方法です。

「吸収合併」(どちらか一方の会社に統合する方法)と「新設合併」(新たに会社をつくって統合する方法)の2種類があります。

合併では、なくなる会社(消滅会社)の権利や契約などをすべて引き継げるため、グループ内での再編や経営効率の向上、税制上のメリットが期待できます。ただし、表面化していない負債や契約トラブルなども一緒に引き継ぐため、慎重な対応が必要です。

会社分割

会社分割とは、ある会社が特定の事業だけを切り出して、他の会社にまとめて引き継ぐ方法です。引き継ぐ先は、既にある会社(吸収分割)か、新しくつくる会社(新設分割)です。

賃貸契約や行政の許認可などもそのまま引き継げるため、手続きが比較的スムーズで、事業ごとにリスクを分けたいときや、部門単位で独立させたいときに向いています。

また、分割方法や対価(株式・現金)の組み合わせも自由度が高く、柔軟にグループ再編を進められるのが特長です。

株式交換・移転

株式交換とは、買い手となる企業(親会社)が、売り手企業(子会社)の株式をすべて引き取り、その代わりに自社の株式を渡す方法です。これにより、売り手企業を完全子会社化できます。

一方、株式移転は、新たに持株会社をつくり、その傘下に複数の塾や教育関連会社をまとめたい場合に使われるスキームです。

どちらも現金を使わず、自社の株式で取引を行うため、買い手にとっては資金面の負担が少なく済むのがメリットです。ただし、新たな株式発行による株主の持ち分の変化(株式の希薄化)や、株主総会での承認手続きが必要になる点には注意が必要です。

学習塾事業をグループ化したい教育企業にとって、戦略的に活用されることが多い手法です。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、売り手企業が新しく株式を発行し、買い手企業(譲受企業)がそれを引き受けることで、出資比率を高める方法です。

これにより、買い手は経営に関わる立場を得られ、売り手は資金を得ることができます。

ただし、既存の株主にとっては持ち株比率が下がる(希薄化)という影響があり、買い手側には出資のための資金調達も必要です。完全買収ではなく、共同経営の形になる点も特徴です。資本提携や段階的なM&Aを進めたい場合に適した手法といえます。

LBO(レバレッジド・バイアウト)

LBOとは、買収する会社の資産や収益力を担保にして借入金を使い、その資金で会社を買収する方法です。買収後は、対象企業が生み出す利益(キャッシュフロー)で借金を返済していきます。

自己資金が少なくても大きな買収ができるため、投資ファンドや経営陣によるMBO(経営陣による買収)・EBO(従業員による買収)でよく使われます。ただし、借入金の利息負担が大きくなりやすく、期待した相乗効果(シナジー)が得られない場合には、経営が不安定になるリスクもあります。

学習塾のM&Aを活用するメリット

学習塾業界では、事業承継や経営課題の解決、成長戦略の一環としてM&Aを活用する動きが広がっています。売り手・買い手の双方にとって多くのメリットがあり、経営資源の有効活用やサービスの質向上にもつながります。

以下では、学習塾のM&Aを活用することで得られる主な利点について整理していきます。

譲渡側のメリット

学習塾の経営者にとって、M&Aは後継者不在や高齢化による事業継続の不安を解消する有効な手段です。大手教育グループや資金力のある企業に譲渡すれば、教室の名前や指導スタイルを残しながら、講師やスタッフの雇用を守り、生徒もこれまで通り通うことができます。

また、買い手企業が持つ最新の教材やICT、指導ノウハウを導入することで、塾の教育力や運営の効率を高めることが可能です。譲渡によりまとまった資金も得られるため、経営者はその後の生活資金や新たな挑戦にも活用できます。

経営が苦しい塾であっても、M&Aを通じて財務を立て直し、再建の道を探ることができる点も大きなメリットです。

譲受側のメリット

買い手企業は、M&Aによって既存の教室や生徒をまとめて引き継げるため、事業エリアの拡大や市場シェアの獲得をスピーディに進められます。講師やスタッフもそのまま継続雇用できるため、人材育成の手間やコストを抑えられるのも大きな利点です。

さらに、自社のデジタル教材や新サービスを導入することで、教育の質や運営効率を一段と高めることができます。教育業界未経験の異業種企業にとっても、運営ノウハウや顧客基盤を一括で取得できるため、新規参入のリスクや時間を大幅に削減できます。

また、駅前など好立地の教室を取得することで、新たに物件を探したり建設したりする手間も不要になり、早期の収益化が期待できます。

学習塾のM&Aを実施するポイント・注意点

学習塾のM&Aを成功させるには、売り手・買い手の双方が事前に十分な準備を行い、手続きや統合後の対応までを見据えて進めることが大切です。

とくに学習塾は「人」と「信頼関係」に支えられた事業であるため、他の業種とは異なる注意点も多く存在します。以下では、M&Aを実施する際に押さえておきたい重要なポイントについて解説します。

譲渡側の注意点

学習塾の経営者がM&Aを円滑に進めるには、まず財務諸表や契約書、許認可などの書類を整理し、専門家による企業価値の評価を受けて、適正な売却価格を把握することが重要です。あわせて、希望する譲渡条件や優先事項を明確にしておき、税理士と連携して所得税や法人税への対策を講じることも欠かせません。

また、買い手による調査(デューデリジェンス)では、簿外債務や未払い賃金といった見えにくいリスクを洗い出しておくことで、取引後のトラブルを防げます。

M&Aの意向は、従業員や講師に対して適切なタイミングで共有し、保護者や生徒にも運営継続と指導品質維持の方針を丁寧に伝えることで、離職や転塾を防ぎやすくなります。

さらに、買い手企業との教育方針や組織文化の違いをあらかじめ把握し、統合後の運営体制を設計しておくことが、M&A成功のカギとなります。

譲受側の注意点

買い手企業は、M&Aの目的を明確にすることが第一歩です。市場拡大や人材確保、デジタル化の推進など、何を実現したいのかを具体化し、KPI(重要指標)を設定したうえで計画を立てることが欠かせません。

適正な買収価格を見極めるには、財務・税務・法務・労務の観点から詳細なデューデリジェンス(事前調査)を行い、簿外債務や未払い給与などのリスクを織り込んだ評価が必要です。

買収後の効果(シナジー)を高めるには、教材やオンライン指導の導入、人材の最適配置などを事前に検討し、それらを統合後の計画(PMI)として具体化しておくことが重要です。

また、従業員や関係者には雇用条件やキャリアパスを丁寧に説明し、保護者や生徒に対しては、教育品質の維持や改善への取り組みを示すことで、安心感と信頼を早期に築くことができます。

さらに、連結決算や減価償却の見直しなど、会計・税務への影響も見積もったうえで、買収後の財務計画を厳密に管理することで、投資回収の実現性を高めることができます。

学習塾のM&Aを実施する手順

学習塾のM&Aを実施する手順は、以下の通りです。

STEP
M&A戦略の策定・準備

はじめに、売り手・買い手の双方が自社の強みや課題を整理し、M&Aを通じて何を実現したいのかを明確にすることが大切です。たとえば、事業の拡大や経営の効率化、事業承継や新規参入など、目的によって取るべき方向性は異なります。

また、学習塾業界は少子化やICT化、地域ごとの特性などを背景に、慎重な戦略が求められます。株式譲渡や事業譲渡、会社分割などの方法から、自社に合ったスキームを検討しましょう。

STEP
仲介会社・アドバイザーの選定

M&Aを円滑に進めるには、学習塾業界に精通した仲介会社や、公認会計士・弁護士・税理士など専門性の高いアドバイザーを選ぶことが重要です。

交渉を自社だけで進めることも可能ですが、経験豊富な専門家にサポートを依頼することで、複雑な手続きをスムーズに行えます。

どの仲介会社に相談すべきか迷う場合には、複数社を一括比較できる「M&A比較ナビ」の活用もおすすめです。信頼できるパートナー探しの第一歩として、ぜひ検討してみてください。

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STEP
売却・買収候補先のスクリーニング

M&Aを進めるうえでは、仲介会社のネットワークや専門アドバイザーの知見を活用し、売却・買収の候補先をリストアップしたうえで、丁寧に調査・選定することが大切です。

学習塾の場合、立地や生徒数、講師の体制、売上規模、ブランド力、ICT環境の整備状況など、業界特有のポイントを踏まえて候補を絞り込んでいきます。その後、トップ同士の面談や現地の視察を通じて、具体的な相性や将来像を確認します。

最終的な判断には、経営理念や組織文化の一致も欠かせない要素です。

STEP
基本合意書(LOI)の締結

交渉がある程度進んだ段階で、譲渡価格の目安や取引の基本条件、今後の進め方などを文書にまとめた「基本合意書(LOI)」を締結します。この書面には、独占交渉権の設定やデューデリジェンス(詳細調査)の実施予定、今後のスケジュールも含まれます。

基本合意書には法的な拘束力はほとんどありませんが、両者が取引に向けて真剣に取り組んでいる意思を確認するうえで重要なステップです。今後の正式契約に向けて交渉を本格化させる土台となります。

STEP
デューデリジェンス

買い手は、売り手から提供された資料をもとに、財務・税務・法務・労務・契約内容・資産状況・ICT環境などを多角的に調査します。この工程を「デューデリジェンス(詳細調査)」と呼び、企業の価値やリスクを客観的に見極めるために欠かせないステップです。

学習塾の場合は、講師や生徒の在籍状況、地域との結びつき、ブランド力、教材やカリキュラムの内容、デジタル化の対応状況などが特に重視されます。

調査の結果、問題やリスクが見つかった場合には、譲渡価格や契約条件の見直し、あるいはリスクを買い手から売り手に移すための調整が行われることもあります。

STEP
最終契約(SPA/事業譲渡契約)締結

デューデリジェンスの結果をふまえて、最終的な取引条件に両者が合意すると、正式な契約書を取り交わします。株式を譲渡する場合は「株式譲渡契約(SPA)」、事業の一部を譲渡する場合は「事業譲渡契約」が使われます。

契約書には、価格や引き継ぐ資産・契約・従業員・生徒の扱い、ICT環境などのほか、財務・税務・労務に関する詳細な条項が盛り込まれます。あわせて、競業を防ぐための「ノンコンペティション条項」や、情報の正確性を保証する「表明・保証」、トラブル時の「補償」に関する取り決めも含まれます。

重要な法的文書となるため、専門家(弁護士や会計士など)の確認を必ず受けることが重要です。

STEP
クロージング

最終契約を締結した後は、契約で定めた内容に沿って「クロージング」と呼ばれる取引完了の手続きを行います。具体的には、代金の支払いと受け取り、株式や事業資産の名義変更、従業員・生徒・保護者への説明、人事やシステムの引き継ぎ、不動産や契約書類の移転などを順に進めていきます。

この過程で、簿外債務や未払いの残業代など、事前に把握されていなかったリスクが発覚することもあります。その場合には、必要に応じて買収条件の見直しや追加交渉が行われることがあります。取引を円滑に完了させるためにも、丁寧かつ慎重な対応が求められます。

STEP
PMI

M&Aが成立したあとは、売り手と買い手の組織や文化、システム、人事などをひとつにまとめる「PMI(Post Merger Integration)」という統合プロセスが始まります。

学習塾の場合、指導方針や教材、カリキュラムのすり合わせに加え、講師やスタッフの労務管理、ITシステムの統合、ブランドやサービス品質の維持、保護者・生徒との関係継続など、統合後の対応が非常に重要です。

特に最初の100日間で「誰が・いつ・何を行うか」を明確にした実行計画を立て、スピード感を持って丁寧に進めることが、シナジー効果の最大化や、従業員・生徒の離脱を防ぐカギとなります。

あわせて、取り組みの効果を定期的に検証し、必要に応じて見直していくことも大切です。

学習塾のM&Aに関するよくある質問

以下では、学習塾のM&Aを進めるうえで寄せられることの多い質問とポイントを整理しています。

地方の学習塾でもM&Aは可能ですか?

地方の学習塾でもM&Aは十分に可能です

少子化や後継者不足が深刻な地方では、M&Aによる事業承継や経営安定への関心が高まっており、実際に多くの中小塾が大手や異業種企業と取引を進めています。

売り手は事業の存続や創業者利益の確保、買い手は市場拡大や立地確保などの目的を達成できます。成功のポイントは、地域性や指導方針の違いを丁寧に調整する統合計画(PMI)です。

実態を正確に開示し、専門家の支援を受けることで、地方の塾でもM&Aのメリットを最大限に活せます。

生徒や保護者にはいつ・どのように伝えるべきですか?

生徒や保護者への報告は、譲受企業との合意がまとまり、経営移転が決まった段階で行うのが基本です。タイミングとしては、クロージングの1~3ヶ月前が目安です。

あまり直前になると混乱を招くため、ある程度の余裕を持って伝えることが望まれます。

説明の際は、「教育方針や講師体制は基本的に継続する」「教室はこれまで通り運営される」など、安心してもらえる情報をわかりやすく伝えることが大切です。説明会や面談を通じて不安に丁寧に対応し、これまで築いてきた信頼関係を大切にしたコミュニケーションを心がけましょう。

信頼できる譲受先と出会うことが、こうしたスムーズな引き継ぎにつながります。

どこに相談すべきか迷っている方は、複数の仲介会社を比較できる「M&A比較ナビ」の活用もおすすめです。理想の譲渡相手との出会いに役立ちます。

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