旅行代理店M&A完全ガイド|相場・事例・仲介会社の選び方を解説

「オンライン旅行会社との競争が激しく、経営の先行きが見えない…」
「後継者もおらず、長年続けてきた会社をどうすればいいのか…」

本記事では、旅行代理店経営者の方へ向けて、旅行代理店M&Aの動向や価格相場、具体的な事例を交えて徹底解説します。

会社の未来を切り拓くための、確かな一歩を踏み出しましょう。

目次

旅行代理店業界のM&Aとは

旅行代理店業界のM&Aとは、会社の合併や買収を通じて、事業の売買や再編を行う経営戦略です。

後継者不在に悩む中小の旅行代理店が事業と従業員の雇用を守るために、また、大手企業が事業規模の拡大やインバウンドのような新市場へ参入するために活用されています。

特にコロナ禍以降、オンライン旅行代理店(OTA)が急速に普及し、旅行者のニーズも大きく変化しました。このような経営環境の中で、M&Aは単に会社を売却するだけでなく、経営基盤の強化や事業の多角化を実現するための、極めて有効な選択肢です。

譲渡側は創業者利益を得られるだけでなく、買い手側も許認可や顧客基盤を迅速に獲得できます。そのため、旅行代理店業界においてM&Aは、会社の持続的な成長を目指すための重要な経営判断といえるのです。

旅行代理店業界のM&Aと他業界との違い

旅行代理店業界のM&Aは、他の業界と比べて「旅行業法に基づく許認可」と「目に見えない資産の価値」という点で大きな違いが存在します。

旅行業を営むためには、観光庁長官や都道府県知事による「旅行業登録」が法律で定められており、これがなければ事業を行えません。

M&Aの手法によっては、この許認可を買い手がスムーズに引き継ぐことができ、事業開始までの時間を大幅に短縮可能です。これは、ゼロから許認可を取得する手間やコストを考えると、非常に大きなアドバンテージになります。

また、長年かけて築き上げた顧客リストや、特定の航空会社やホテルとの強固な関係、地域に特化した旅行プランの企画力といった「無形資産」が企業価値に大きく影響します。

これらの資産をいかに正しく評価し交渉するかが成功の鍵を握る点も、旅行代理店M&Aの際立った特徴といえるでしょう。

旅行代理店業界のM&Aの価格相場

旅行代理店M&Aの価格相場は、企業の収益性やブランド力によって大きく変動します。

一般的には「時価純資産額(企業の保有資産から負債を引いた金額)」に、「営業利益の2年〜5年分」を足した金額が一つの目安です。

しかし、旅行代理店の場合は、価格相場を示す計算式に加えて、独自の強みである無形資産が企業価値を大きく左右します。

例えば、リピート率の高い優良顧客のリストや、特定の国や地域に関する深い専門知識、あるいは特定の仕入れ先との独占的な契約などが、価格を押し上げる重要な要因になるのです。

特にインバウンド需要の回復や富裕層向け旅行の増加を背景に、独自の強みを持つ旅行代理店の価値は高まる傾向にあります。自社の正確な価値を知るためには、旅行業界に精通したM&Aの専門家に相談し、詳細な企業価値評価(バリュエーション)を受けることが不可欠です。

旅行代理店業界M&Aの最新・注目事例3選

旅行代理店業界でもM&Aの活用が進んでおり、さまざまな形で事業の拡大や新たな価値創造が実現されています。

旅行代理店M&Aの事例は以下のとおりです。

以下では、実際に行われた旅行代理店M&Aの事例を取り上げ、それぞれの背景や目的について詳しく紹介します。

これらの具体的な動きから、自社におけるM&Aの可能性をイメージしてみてください。

エアトリ、海外ツアー予約サイト運営のかもめ社を子会社化

オンライン旅行事業大手の株式会社エアトリは、2023年に海外向け体験ツアー予約サイトを運営する株式会社かもめを子会社化しました。

これは、コロナ禍からの回復期を見据え、海外旅行事業を再び強化するための戦略的な一手です。

エアトリは国内の航空券予約に強みを持つ一方で、かもめ社は海外の現地オプショナルツアーという領域で独自の地位を築いていました。このM&Aによって、エアトリは自社の顧客に対し、海外旅行における新たな付加価値を提供できるようになったのです。

両社のサービスが連携することで、航空券から現地でのアクティビティまで一貫した旅行体験を提供し、顧客満足度の向上と収益拡大を目指す好事例といえます。

HIS、コンテナホテル展開のデベロップの株式を取得

大手旅行会社の株式会社エイチ・アイ・エス(HIS)は、2023年にコンテナホテル事業を運営する株式会社デベロップの株式を追加取得し、関係を強化しました。旅行事業だけでなく、宿泊事業へ深く関わることで、事業の多角化と経営の安定化を図る動きです。

デベロップが展開するコンテナホテルは、平時は宿泊施設として、災害時には移動可能な仮設宿泊所として利用できるというユニークな特徴を持ちます。HISはこのM&Aを通じて、旅行者に新しい宿泊体験を提供すると同時に、社会貢献性の高い事業にも参入しました。

旅行需要の変動に左右されにくい事業構造を構築し、企業として持続的な成長を目指す戦略的な一手として注目されています。

令和トラベル、Aloha7Inc.の完全子会社化

海外旅行予約アプリを提供する株式会社令和トラベルは、2023年にハワイ旅行を専門とするAloha7Inc.を完全子会社化しました。これは、特定の旅行先に強みを持つ会社を取り込むことで、自社の専門性を一気に高める「特化型M&A」の事例です。

令和トラベルはアプリ開発というテクノロジーに強みを持つ一方、Aloha7はハワイという人気観光地に関する深い知識と現地のネットワークを保有していました。この統合により、テクノロジーとリアルの専門知識が融合し、ハワイ旅行を検討する顧客へ、より質の高いサービス提供が可能になります。

デジタルと専門性を組み合わせて特定の市場で圧倒的な競争力を持つことを目指す、現代的なM&Aの好例といえるでしょう。

旅行代理店業界におけるM&Aでおすすめの仲介会社・サービス3選

旅行代理店業界のM&Aは、許認可の扱いや無形資産の評価など、専門的な知見が欠かせません。そのため、業界に精通し、信頼できる仲介会社のサポートが成功の鍵を握ります。

旅行代理店M&Aにおすすめの仲介会社・サービスは、以下のとおりです。

以下では、旅行代理店M&Aに強みを持つ仲介会社や支援サービスを紹介します。

どの仲介会社に相談すべきか判断が難しい場合は、複数のサービスをまとめて比較できる「M&A比較ナビ」の活用が便利です。自分に合った支援先を見つけたい方は、まずは無料相談から始めてみてください。

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M&A総合研究所

M&A総合研究所
会社情報詳細
サポート内容・売り手/買い手双方への初期相談(無料)
・企業価値算定(無料)
・M&Aスキーム策定支援
・デューデリジェンスサポート
サポート体制・各業界に特化したM&Aアドバイザーがフルサポート
・弁護士、会計士、税理士など専門家との連携
料金体系・売り手:完全成功報酬制(着手金・中間金無料)
・買い手:中間報酬+成功報酬

レーマン方式による料率
5億円以下の部分:5%
5億円超〜10億円以下の部分:4%
10億円超〜50億円以下の部分:3%
50億円超〜100億円以下の部分:2%
100億円超の部分:1%
特徴・最短3ヶ月での成約実績を誇るスピード感
・AIと独自ネットワークを駆使したマッチング
・完全成功報酬制による安心の料金体系
運営会社株式会社M&A総合研究所
URLhttps://masouken.com/

株式会社M&A総合研究所は、中小・中堅企業のM&Aに特化した仲介会社です。最大の強みは、着手金や中間金が一切かからない「完全成功報酬制」と、AIを活用した高いマッチング精度によるスピード成約です。

各業界に精通したアドバイザーが在籍しており、旅行代理店業界特有の論点についても的確なサポートが期待できます。譲渡を検討し始めた段階でも、費用を気にせず無料で相談できるため、M&Aの第一歩として非常に頼りになる存在です。

できるだけ早く、かつ安心してM&Aを進めたいと考える経営者の方におすすめの仲介会社です。

スクロールできます

M&A総合研究所さんは、買い手候補先を探索し、そことの関係構築に特化させる部隊を持つ。売りアド取った人間はそこから情報を得て両手で取り組む。まあ、これはよい仕組みだと思います。銀行でこれやってもよいかも。

引用:X(旧Twitter)

家業の事業承継に悩んでおり、家族で相談し問い合わせしました。 仲介会社の中で最も対応が良く、スピードも早かった。

引用:Google Map

ここだけは頼んではダメな会社、営業マンがノルマ重視で、とにかく契約させる。とにかく売る。礼儀もなってないし、連絡もできない。問題が出てくると恫喝してくる。ここは危険。

引用:Google Map

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日本M&Aセンター

日本M&Aセンター
会社情報詳細
サポート内容・M&A戦略の策定支援・企業評価、市場調査、海外M&A支援
・PMI(成約後の統合プロセス)支援
サポート体制・業界別の専門チーム
・全国の地方銀行、信用金庫
・会計事務所との連携ネットワーク
・海外拠点との連携
料金体系レーマン方式による成功報酬(着手金あり)

レーマン方式での算出方法
譲渡企業の時価総資産額に対する料率
5億円以下の部分:5%
5億円超〜10億円以下の部分:4%
10億円超〜50億円以下の部分:3%
50億円超〜100億円以下の部分:2%
100億円超の部分:1%
※譲渡企業(国内)の場合
特徴・業界No.1の圧倒的な成約実績と信頼性
・全国を網羅する広範なネットワーク
・大手企業から中小企業まで幅広い対応力
運営会社株式会社日本M&Aセンター
URLhttps://www.nihon-ma.co.jp/

株式会社日本M&Aセンターは、M&A仲介業界のリーディングカンパニーであり、その圧倒的な実績と信頼性が最大の特徴です。

全国の金融機関や会計事務所との広範なネットワークを活かし、同業他社だけでなく、インバウンド事業の強化を狙う異業種からの最適なマッチングも実現します。

旅行代理店を含む観光・サービス業に特化した専門チームを擁しており、旅行業法に基づく許認可の扱いや、前受金の会計処理といった業界特有の複雑な論点にも精通しています。

また、成約後の統合プロセス(PMI)まで一貫してサポートする体制も強みです。予約システムや顧客情報の統合、仕入れルートの最適化まで、M&A後の事業成長を見据えた具体的な支援が期待できます。

長年の実績に裏打ちされた安心感と、質の高い専門的なサポートを求める経営者の方に最適な仲介会社です。

スクロールできます

金融機関との強固な連携関係があり、他社と比べて保有する情報量が圧倒的に多い。

引用:エンゲージ

対応がよかったので、また利用したいと思います。ありがとうございました。

引用:Google Map

不要な郵便物を勝手に送りつけてきたり、迷惑な電話を頂いております。御社とは一切関わりたくないので今後迷惑行為はやめてください。

引用:Google Map

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バトンズ(BATONZ)

バトンズ
会社情報詳細
サポート内容・オンラインでのマッチングプラットフォーム提供
・専門家(バトンズパートナー)による実務支援
・企業価値算定ツールの提供
サポート体制・全国の税理士、弁護士、M&Aアドバイザーなどが専門家として登録
・オンラインでのQ&A、交渉サポート
料金体系<売り手>
無料

<買い手>
成約報酬:成約価格の2%(税込2.2%)
※成約価格による最低利用料
1000万円未満:最低35万円(税込38.5万円)
1000万円以上:最低70万円(税込77万円)
5000万円以上:最低150万円(税込165万円)
※会社譲渡(株式譲渡)は「プレミアムサポートサービス」の利用必須
特徴・国内最大級の登録案件数を誇るM&Aプラットフォーム
・売り手は無料で利用可能
・小規模な案件から検討できる手軽さ
運営会社株式会社バトンズ
URLhttps://batonz.jp/

株式会社バトンズは、オンライン上で売り手と買い手を直接つなぐ、国内最大級のM&Aマッチングプラットフォームです。

最大の魅力は、売り手であれば登録から成約まで基本的に無料で利用できるため、コストを抑えてM&Aを進めたい中小規模の旅行代理店にとって非常に利用しやすい点にあります。

地域に根差した顧客基盤や、特定の国・旅行形態への専門性といった自社の強みを直接アピールすることで、思わぬ好条件の買い手が見つかる可能性があります。同業他社だけでなく、旅行業界への新規参入を狙う異業種の企業や、独立を目指す個人など、幅広い相手にアプローチできるのも特徴です。

まずは自社の価値を市場で試してみたい、あるいは費用をかけずに情報収集から始めたいと考える経営者の方にとって、非常に有用なサービスといえるでしょう。

スクロールできます

初めての経験で、わからないことだらけだったのですが、右も左もわからない私たちをサポートしていただけたこと、とても感謝しております。
希望の金額でも販売できたのも、バトンズ様の信頼と、担当者様のお力添えのおかげだと思っております。

引用:Google Map

バトンズのようなM&Aのプラットフォームは中小企業にとってめちゃくちゃ需要あるなと思うと共に、知識や情報が不足する中でも簡単にM&Aを実行できてしまうという恐ろしい一面もはらんでいると思う。

引用:X(旧Twitter)

返信の遅さとコミュニケーションの質の低下には驚いています。BATONZと私のビジネスの潜在的な買い手との会議を行うためにプロセスを経たことは時間の無駄だったと感じています。LOI(意向表明書)に関してフォローアップする際、自分自身も興味を持っている買い手も、BATONZからの適切な対応を得ることができず、プロセスを進めることができませんでした。

引用:Google Map

>>(無料)バトンズに問い合わせる

旅行代理店業界のM&A動向(現状・課題・今後)

旅行代理店業界のM&Aを成功させるためには、業界が今どのような状況にあり、将来どう変化していくのかを正確に把握することが重要です。

ここでは、M&Aの背景となる「現状」、乗り越えるべき「課題」、そしてこれからの「今後」について解説します。

【現状】旅行代理店でM&Aが活発化する4つの背景

現在、旅行代理店業界ではM&Aが活発化しています。その背景には、主に4つの要因が複雑に絡み合っています。

第一に、経営者の高齢化と後継者不足です。中小の旅行代理店の多くで事業承継が深刻な問題となっており、廃業を避けるための選択肢としてM&Aが注目されています。

第二に、コロナ禍を経て変化した経営環境への対応です。オンライン旅行代理店(OTA)との競争が激化し、単独での生き残りが困難になった企業が、大手傘下に入ることで経営の安定化を図るケースが増加しました。

第三に、インバウンド需要の回復と拡大です。海外からの旅行客を取り込むため、専門的なノウハウや人材を持つ旅行代理店を大手企業が買収する動きが活発です。

最後に、事業の多角化ニーズの高まりが挙げられます。旅行事業だけでなく、関連する領域へ進出するためにM&Aを活用する企業も少なくありません。これらの要因から、業界再編の動きは続くと考えられます。

【課題】OTAとの競争激化だけではない!M&Aが進まない旅行代理店の共通点

最大の課題は、特定の経営者や従業員への過度な依存です。

社長の人脈やベテラン社員のスキルだけで事業が成り立っている場合、買い手はその属人性の高さをリスクと判断します。その結果、適正な企業価値評価を受けにくくなるのです。

また、顧客情報や業務マニュアルが整理されておらず、事業の透明性が低いことも障壁となります。買い手は、買収後にどのような資産やノウハウを引き継ぐのかを明確に把握できないと、交渉に踏み切れません。

さらに、旅行業法などの許認可に不備があったり、財務状況が不透明であったりすることも、M&Aを困難にする大きな要因です。

【今後】インバウンド需要の取り込みと事業の多角化

今後の旅行代理店業界は、「インバウンド需要の取り込み」と「事業の多角化」がM&Aの主要なテーマとなるでしょう。政府が掲げる訪日外国人旅行者数の目標達成に向けて、インバウンド市場はさらなる成長が見込まれます。

そのため、特定の国や地域の言語・文化に精通した人材を持つ旅行代理店や、富裕層向けなどユニークな体験を提供できる企業の価値はさらに高まります。大手企業がこれらの専門的な企業をM&Aによって取り込み、インバウンド事業を強化する動きは加速する見込みです。

同時に、旅行需要の変動リスクを分散させるための事業多角化も進みます。例えば、ホテルや交通機関の運営、イベント企画、あるいは地方創生に関連するコンサルティング事業など、旅行と親和性の高い領域への進出が増えるでしょう。

このような異業種への展開においても、M&Aは迅速な事業基盤獲得の手段として重要な役割を果たします。

旅行代理店業界におけるM&Aのスキーム

旅行代理店のM&Aでは、会社の状況や当事者のニーズに応じて、主に3つの手法(スキーム)が用いられます。

それぞれに特徴があるため、自社に最適な方法を選択することが重要です。

以下で、それぞれのスキームについて詳しく解説します。

【株式譲渡】許認可や従業員をまとめて引き継ぐ最も一般的な手法

株式譲渡は、会社の経営権そのものを株式の売買によって買い手に移転させる手法です。

旅行代理店のM&Aにおいて最も一般的に用いられるのは、会社を丸ごと引き継ぐため、旅行業登録などの許認可や従業員との雇用契約、取引先との契約関係などを個別に手続きすることなく、包括的に承継できるからです。

売り手にとっては、手続きが比較的シンプルで、譲渡対価は株主であるオーナー個人が受け取れるというメリットがあります。一方、買い手は会社を丸ごと引き継ぐため、帳簿には現れない簿外債務などの潜在的なリスクも引き継いでしまう可能性がある点に注意が必要です。そのため、事前のデューデリジェンス(企業調査)が極めて重要になります。

【事業譲渡】インバウンド事業など特定の事業を選んで売買する手法

事業譲渡は、会社の経営権はそのままに、特定の事業部門だけを切り出して売買する手法です。

例えば、「インバウンド事業部」や「教育旅行部門」など、特定の事業だけを譲渡したい、あるいは買収したいという場合に有効な選択肢となります。

買い手にとっては、必要な事業や資産だけを選んで買収できるため、簿外債務などの不要なリスクを引き継ぐ心配がありません。売り手にとっても、不採算事業を切り離して中核事業に集中する、といった経営戦略に活用できます。

ただし、資産や契約、従業員などを個別に移転させる手続きが必要となり、株式譲渡に比べて手続きが煩雑になる点がデメリットです。また、旅行業登録は会社に紐づくため、買い手側で新たに登録が必要になる場合があります。

【合併】複数の旅行代理店が統合し経営基盤を強化する手法

合併は、2つ以上の会社が1つの法人格に統合される手法です。経営不振に陥った企業を救済する場合や同規模の企業同士が統合して経営基盤を強化し、スケールメリットを追求する場合などに用いられます。

例えば、地域に根差した複数の旅行代理店が合併することで、仕入れの共同化によるコスト削減や、販売チャネルの拡大といったシナジー効果が期待できます。これにより、大手旅行代理店やOTAに対抗できる競争力を確保することを目指せるでしょう。

ただし、合併は各社の株主や債権者の同意を得るなど、法的に複雑な手続きを要します。また、異なる企業文化を持つ従業員たちの意識を統合していくプロセス(PMI)も重要となり、他のスキームに比べて時間と労力がかかる場合があります。

旅行代理店業界でM&Aを活用するメリット

M&Aは、譲渡する側(売り手)と譲受する側(買い手)の双方に大きなメリットをもたらします。

それぞれの立場から、旅行代理店業界ならではのメリットを見ていきましょう。

【譲渡側】築き上げたブランドや専門性を大手資本でさらに発展させられる

後継者不在に悩む経営者にとって、M&Aは廃業以外の道を開く希望の光です。

長年かけて築き上げてきた自社のブランドや、特定の国・地域、あるいはクルーズ旅行や秘境ツアーといった専門性を大手企業の資本力やネットワークを活かして、さらに発展させられる可能性があります。

単に会社を売却するのではなく、自社の強みを正しく評価してくれるパートナーに引き継ぐことで従業員の雇用を守り、取引先との関係も維持できます。そして何より、これまで支えてくれた顧客に対して、より質の高い安定したサービスを提供し続けられることは、経営者にとって大きな喜びとなるでしょう。

M&Aは、大切な会社を未来へつなぐための前向きな選択肢なのです。

【譲受側】許認可や顧客基盤を一括で獲得し、事業をスピード拡大できる

買い手にとって、M&Aは時間を買う行為ともいえます。

ゼロから事業を立ち上げる場合に必要な旅行業登録の許認可、顧客基盤、経験豊富な人材、そして航空会社やホテルとの仕入れネットワークといった経営資源を、M&Aによって一括で獲得できるからです。

これにより、新規市場への参入や事業エリアの拡大を圧倒的なスピードで実現できます。特に、インバウンド市場や富裕層向け旅行など、専門性が求められる分野への参入を狙う企業にとって、その分野に特化した旅行代理店を買収することは極めて効果的な戦略です。

M&Aは、競争の激しい旅行業界で優位性を確立するための、強力な武器となります。

旅行代理店業界でM&Aを成功させるポイント・注意点

M&Aを成功に導くためには、メリットだけでなく、潜在的なリスクや注意点を十分に理解しておく必要があります。

ここでも譲渡側・譲受側の双方の視点から、成功のための重要なポイントを解説します。

【譲渡側】人材の離反を防ぎ、目に見えない資産の価値を正当に評価してもらう

譲渡側にとって最も重要なのは、M&Aの交渉中から成約後にかけて、キーパーソンとなる従業員や主要な取引先が離れていかないように細心の注意を払うことです。

不安を煽らないよう、情報管理を徹底し、適切なタイミングで丁寧な説明を行う必要があります。

同時に、自社の価値を正しく評価してもらうための準備も欠かせません。売上や利益といった財務データだけでなく、優良顧客リストや独自の旅行商品の企画力、特定の地域との強固なネットワークといった「目に見えない資産(無形資産)」の価値を客観的な資料で示すことが、有利な条件での売却につながります。

これらの強みを整理し、魅力的にアピールすることが成功の鍵です。

【譲受側】隠れたリスクの精査と、事業モデルの将来性(属人性)を見極める

譲受側が最も警戒すべきは、財務諸表に現れない「隠れたリスク」です。

未払いの残業代や訴訟リスクといった簿外債務がないか、旅行業登録の更新手続きに不備がないかなどを、専門家によるデューデリジェンス(企業調査)を通じて徹底的に精査する必要があります。

また、買収対象の事業モデルが将来にわたって、持続可能かどうかを見極めることも重要です。例えば、事業が特定の経営者や従業員の個人的なスキルや人脈に過度に依存している場合、その人が退職すると事業価値が大きく損なわれるリスクがあります。

事業の仕組みやノウハウが組織として標準化されているかどうかの確認が、M&A成功の分かれ目となります。

失敗しないための旅行代理店M&Aの全10手順

旅行代理店のM&Aは、他業界にはない特有の法規制や商慣習があるため、手順ごとのポイントを正しく理解することが成功の鍵です。

計画的に準備を進めるため、具体的な流れを10のステップで解説します。

STEP
M&Aの検討・目的の明確化

まずは「なぜM&Aを行うのか」を明確にします。例えば「OTAに対抗するため大手傘下で安定化を図る」「インバウンド事業を強化したい」「後継者不在のため、従業員の雇用とブランドを守りつつ事業承継する」など目的によって交渉相手や戦略が大きく変わります。

STEP
M&A仲介会社との契約・FAの選定

M&Aの成否は、パートナーとなる仲介会社選びで大きく左右されます。特に旅行代理店の場合、旅行業法や許認可、前受金の扱いなどを熟知した専門家を選ぶことが極めて重要です。業界特有の無形資産(顧客リストや仕入ルート)を正しく評価できる専門家を選定しましょう。

どの仲介会社が自社に適しているか判断が難しい場合は、複数の会社を無料で比較検討できる「M&A比較ナビ」などを活用し、慎重にパートナーを選ぶことをおすすめします。

>>(無料)M&A比較ナビに相談する

STEP
自社の企業価値評価と資料作成

仲介会社と共に、自社の企業価値を算定します。財務状況に加え、「第1種・第2種などの旅行業登録の種類」「優良顧客リストの質」「航空会社やホテルとの取引条件」「特定の国やツアーへの専門性」といった無形資産を資料にまとめ、企業価値を具体的に示します。

STEP
買い手候補の選定と交渉開始

仲介会社のネットワークを通じて、シナジー効果が見込める買い手候補へ打診します。大手旅行会社のほか、インバウンド強化を狙う異業種(IT企業や不動産会社など)も候補になり得ます。秘密保持契約後、旅行業特有の強みをアピールしながら交渉を開始します。

STEP
トップ面談と基本合意書(LOI)の締結

売り手と買い手の経営者同士が面談し、事業への想いやM&A後のビジョンを共有します。特に「既存のツアーブランドをどう扱うか」「従業員の専門性(カウンター、企画、添乗員)をどう活かすか」といった点をすり合わせ、大筋合意に至れば基本合意書を締結します。

STEP
買い手によるデューデリジェンス(DD)の実施

買い手が売り手企業を詳細に調査します。旅行代理店の場合、財務や法務に加え、「旅行業登録が有効か、行政処分歴はないか」「旅行代金の前受金は適切に管理されているか」「弁済業務保証金制度などの供託金に問題はないか」といった点が厳しくチェックされます。

STEP
行政(観光庁・都道府県)への手続き・許認可の確認

M&Aの手法に応じて、旅行業登録の変更や承継手続きを行政庁に確認します。株式譲渡なら登録の承継、事業譲渡なら買い手による新規登録が原則です。旅行業協会(JATA、ANTA)への届出も必要なため、事前に段取りを確認しておくことが重要です。

STEP
最終契約書(SPA)の締結

DDの結果を踏まえて最終条件を交渉し、最終契約書を締結します。契約書には、旅行業登録の有効性や前受金の扱い、旅行業務取扱管理者の継続雇用など、旅行業ならではの前提条件が表明保証として盛り込まれることが一般的です。

STEP
クロージング(株式や資産の移転・代金の決済)

最終契約書に基づき、株式や資産の移転と代金の決済を実行します。この際、旅行業登録の名義変更手続きや、予約管理システム・GDS(航空券予約システム)のアカウント権限移管なども滞りなく行い、M&Aが完了します。

STEP
PMI(買収後の経営統合)の実行

M&Aで最も重要ともいわれる最終段階です。買い手と売り手が協力し、予約・顧客管理システムの統合や、双方の仕入れチャネルの共有化によるコスト削減、ツアー企画ノウハウの共有などを進めます。異なる企業文化を乗り越え、従業員のモチベーションを維持しながら、M&Aの相乗効果を最大化していきます。

旅行代理店のM&Aに関するよくある質問

最後に、旅行代理店のM&Aを検討されている経営者の方からよくいただく質問にお答えします。

観光業の許認可がないのですが、M&Aは可能ですか?

買い手側に観光業の許認可(旅行業登録)がなくても、M&Aを進めることは可能です。

最も一般的な手法である「株式譲渡」の場合、許認可を保有している会社法人そのものを引き継ぐため、買い手は新たに許認可を取得する必要がありません。これが株式譲渡が選ばれやすい大きな理由の一つです。

ただし、「事業譲渡」で旅行事業の一部だけを買い取る場合は、買い手側で新たに旅行業登録を行う必要があります。どのM&Aスキームを選択するかによって許認可の扱いが異なるため、専門家とよく相談することが重要です。

旅行代金の前受金がありますが、M&Aの際にどのように扱われますか?

旅行代金の前受金は、会計上「負債」として扱われ、M&Aの際には買い手企業に引き継がれるのが一般的です。

前受金は、顧客が旅行に出発する前に支払った代金であり、会社にとっては「将来サービスを提供する義務」を負っている状態です。そのため、M&Aの企業価値評価(価格算定)においては、会社の負債として純資産から差し引かれます。

この前受金の取り扱いは、旅行代理店M&Aにおけるデューデリジェンス(企業調査)で特に重要なチェックポイントです。正確な残高を把握し、買い手側に誠実に開示することが、円滑な取引の前提となります。もし不明な点があれば、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。複数の仲介会社を比較検討できる「M&A比較ナビ」などを活用し、信頼できる相談先を見つけるのも良いでしょう。

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