事業承継で経営者が抱える悩みとは?悩みを軽減させる方法を解説

目次

事業承継で考えるべきことは多い

少子高齢化や働き方の多様化を背景として、中小企業の事業承継は年々ハードルが高くなっています。周囲が後継者探しに苦労している話を聞いて、将来の事業承継に漠然とした不安を抱えている経営者も多いでしょう。

事業承継をスムーズに進めていくためには、まず他の経営者が具体的にどのような課題に直面しているか知ることが有効です。想定できる課題に対してあらかじめ対策方法を知っておけば、安心して事業承継の計画を立てられるでしょう。

今回は現代の経営者の事業承継に関する悩みを網羅的に紹介し、その対策も解説します。

事業承継を考える事業者がよく抱える悩みと対処方法

事業承継を考える事業者がよく抱える悩みと対処方法

経営者が抱える事業承継の悩みはさまざまですが、大まかに以下の8つに分類できます。

  • 何から始めるべきか分からない
  • スケジュール感が分からない
  • 後継者が見つからない
  • 後継者に経営の資質やスキルがない
  • 自分の親族に事業承継を拒否されている
  • 相談相手がいない
  • 後継者が関係各所に受け入れてもらえない
  • 税負担の程度が予想できない

このなかで、自社で同じ課題が生じることが予測できる方もいるでしょう。しかし他の多くの人が悩んでいる事柄に関しては、その対処方法もさまざまに考え出されています。ここでは一般的な悩みと併せて、対処方法に焦点をあてて解説していきます。

何から事業承継を始めれば良いか知らない

最も厄介な問題といえるのが、事業承継対策の最初の一歩を踏み出そうと思っても、まず何をするのかで悩んでしまうことです。長くて10年かかるといわれる事業承継の準備は膨大で、何から手をつけるべきか分からない方も多いでしょう。

この状態をそのままにしておくと、目の前にある会社の問題にばかり意識が向いてしまい、事業承継の準備が後回しになってしまいます。そして体力が衰えてタイムリミットを意識する頃になって、慌てて事業承継対策に奔走することになるかもしれません。

始めの一歩として、事業承継計画書の策定に取り掛かりましょう。中小企業庁のホームページには、事業承継計画書のテンプレートが掲載されています。それを参考にして承継の方法やタイミング、後継者について考えていくうちに、自社の現状と取り掛かるべき課題が見えてくるでしょう。

事業承継のスケジュール感が分からない

気力の充実した経営者にとって、事業承継はまだ先のことというイメージが先行してスケジュール感を掴むのが難しい場合が多いでしょう。もっと中期的な経営課題が山積みな現状で、本当に事業承継対策を始めるべきなのかと疑問に思う方もいるかもしれません。

まず事業承継に必要な準備期間は、5年〜10年が目安ということを知っておきましょう。後継者の有無など各企業の状況にもよりますが、セカンドライフのことも考えて自身の理想の引退年齢から逆算したとき、残り時間が10年も無いなら今から準備を始めるのがおすすめです。

特に現経営者の年齢が上がるにつれて、何かのきっかけで体調を崩して十分に経営や後継者の指導ができなくなる可能性も高くなります。まず先述の事業承継計画書を策定しておき、取り掛かるべきところからコツコツ進めていくことが重要です。

後継者が見つからない

現代の中小企業経営者を悩ませる最大の問題は、後継者の不在でしょう。中小企業全体で経営者の高齢化が進むなか、適切な後継者を確保できていない企業の割合は4割に上ります。

長年国内の中小企業においては、現経営者の子息など親族内で後継者を見つけるスタイルが一般的でした。そのため他の事業承継の方法を知らず、親族内に適切な後継者候補がいないと途端に行き詰ってしまうケースが見られます。

事業は株式を有償で譲渡する形で、従業員などに引き継ぐこともできます。また自力で後継者候補を見つけることができない場合、M&A仲介会社などに相談すれば、M&Aという形で事業を受け継いでくれる企業を見つけてもらえるでしょう。

後継者が頼りない

悩ましいのは、事業を受け継ぐ意思のある後継者がいても、十分な素質やスキルが備わっていない場合です。特に自身で会社を立ち上げて育ててきた経営者にとっては、どうしても後継者が頼りなく感じて、会社を任せることに不安を感じるケースは多いでしょう。

このような後継者に必要なのは経験です。現経営者が理念や自社の経営について必要な知識を教え込むことはもちろん、後継者自身に多くの経験を積ませて、ノウハウと覚悟を身に着けさせなくてはなりません。

会社の内外を問わず、現経営者の方が自社経営に活かせると考える経験をリストアップし、後継者育成の計画を立てましょう。必要な経験を積んだという自信は、後継者にとっても会社経営をスムーズに進めていくための支えとなるでしょう。

親族に事業承継を拒否された

現経営者は自身の長子などに事業を引き継ぐつもりでいても、いざ本人に話してみると事業承継を拒否されるケースも増えています。働き方や価値観の多様化で、若い世代がリスクの大きな中小企業経営に魅力を感じにくくなっていることも一因です。

まずは後継者候補と見込んでいる相手には、早めに意思を確認しておく必要があるでしょう。当然会社を受け継いでくれるはずという思い込みは、意見が食い違ったときにお互いを追い詰めることになり、最悪の場合は家族関係にも影響を及ぼします。

そして現経営者は、後継者が受け継ぎたいと思うような会社にする努力も必要です。負債が多ければ後継者のリスクも増すので、まずは財政状況を把握しましょう。またチャレンジ精神に富んだ風土を育むなど、魅力のある組織作りも大切です。

事業承継の悩みを誰に相談すれば良いか分からない

経営者にとって、悩みが生じても気軽に相談できる相手がいないのは、事業承継に限った問題ではないでしょう。家族は経営の内情に通じてはいませんし、事業承継は従業員など関係者に軽々しく話せる問題ではありません。

特に高齢の経営者は一人で事業承継の悩みを抱え込み、結果的に糸口を見つけることはできず諦めて廃業を選ぶケースが増えています。

まずは取引のある税理士、会計士、あるいは金融機関の担当者などに相談してみましょう。事業承継対策では、遅かれ早かれこうした各分野の専門家のサポートを受ける場面が出てきます。早めに自社が抱える課題について話すことで、一緒に対策を考えてもらうこともできるでしょう。

従業員や取引先が事業承継を受け入れてくれない

素質があると判断した後継者であっても、従業員や取引先など関係者から反発を受ける可能性もあります。

特に会社の役員や従業員、あるいは完全に外部の人材を、経営者の一存で指名した場合は注意が必要です。自分のほうが素質があると考える古参の従業員が不満を抱き、社内でトラブルを起こすケースもあります。

こうした不和を避けるためにも、後継者には人柄の良い人物を選ぶのがよいでしょう。従業員や取引先から信頼されるような人物は、承継後も上手く組織をまとめてリードしていく素質があります。特に経営者のコミュニケーション能力は、中小規模の企業で風通しの良い社風をつくるためにも必須の条件といえるでしょう。

税負担の程度を予想できない

事業承継にかかるコストも気になるところです。特に事業承継で発生する税負担は、知識が無く漠然とした不安を感じている方も多いでしょう。

一般的な事業承継の場合は、事業を引き継ぐ現経営者の側が負担する税金はありません。しかし自身の家族などに贈与や相続で株式を引き継ぐ場合は、後継者側には贈与税や相続税の負担が発生します。

現在は国を挙げて事業承継を促進していく流れのなかで、事業承継税制の制度を利用すれば相続税や贈与税が実質免除される可能性があります。その他にも贈与のタイミングで自社株式の評価額を下げるようにするなど、各種の節税方法があるので一度税理士に相談してみましょう。

事業承継の悩みを軽減する方法

事業承継の悩みを軽減する方法

事業承継にまつわる一般的な課題を知ったところで、次は経営者の方の悩みを軽減するための方法を見ていきましょう。一般的な方法は以下の3つです。

  • 事業承継ガイドラインや事業承継マニュアルを活用する
  • 悩みに適した専門家に介入依頼をする
  • 事業承継の費用負担を軽減できる制度を利用する

中小企業庁では経営者が事業承継を円滑に進められるよう、ガイドラインやマニュアルを策定しています。また民間のサービスで専門家を頼ることも可能です。さらに費用負担を軽減する公的制度もあるので、それぞれについてあらかじめ知っておけば、問題が生じたときも動じずに対処できるでしょう。

事業承継ガイドラインや事業承継マニュアルを活用する

何か不安や疑問が生じたときは、まず中小企業庁のホームページにある事業承継ガイドラインを確認しましょう。事業承継の準備の進め方、従業員や他社へと事業を引き継ぐ場合の注意点、さらには困ったときに頼れる相談先まで記載されています。

また同じく中小企業庁の事業承継マニュアルも活用できます。事業承継ガイドラインの内容のなかでも、事業承継計画の立て方、後継者の育成方法、税負担や資金調達の問題は特に重要です。詳しい手順が記載されています。

ほとんどの経営者にとって事業承継は初めての取り組みです。どのように進めれば良いかというマニュアルを信頼できる情報元から得ることで、事業承継に対する漠然とした不安を取り除くことができるでしょう。

悩みに適した専門家に介入依頼する

適切なアドバイスをしてくれる相談相手がいれば、多くの悩みが解消できるでしょう。事業承継で頼りになるのは、税理士や会計士、あるいは弁護士やM&A仲介会社などのプロフェッショナルです。

すでに取引のある税理士や会計士が存在する場合は、気軽に事業承継の悩みを相談してみましょう。現在こうした士業の専門家は事業承継の相談を受ける機会も増えているので、その経験から有益なアドバイスが期待できます。

ただし事業承継を進めていくなかで、より専門的な知識を要する課題が出てきたときは、その分野に詳しい専門家を選ぶことも大切です。会社法や契約書に関わる問題は弁護士、節税対策は税理士のように、課題ごとに適切な相談相手を選ぶようにしましょう。

事業承継の費用負担を軽減できる制度を利用する

後継者の税負担がハードルとなっている中小企業のため、事業承継税制という制度があることはすでに説明しました。事業承継税制を利用するためには、2024年3月までに各都道府県知事に特例承継計画書を提出して承認を受ける必要があります。企業によってはタイトなスケジュールかもしれませんが、チャレンジするだけの価値はあるでしょう。

2021年度に実施された事業承継・引継ぎ補助金は、2022年度も実施予定です。この補助金を活用すれば、後継者が承継後に経営革新を行う際の資金に補助を受けられます。また再チャレンジのために古い事業を廃業するための費用、事業承継で各専門家のサービスを利用するための費用も補助対象です。

2022年の3月以降に申請受付が開始される予定なので、こまめにチェックしておきましょう。

事業承継の悩みや不安はなるべく早く解消させよう

事業承継の悩みや不安はなるべく早く解消させよう

事業承継の手順やスケジュール、後継者問題など経営者の一般的な悩みを見てきました。事業承継は経営者の最後の大仕事ですから、いろいろな悩みや不安が生じるのは当然のことでしょう。

しかし現在では各中小企業の事業承継を円滑に進めるため、国を挙げてさまざまな取り組みがなされています。公的機関・民間を問わず相談先が充実していますし、費用面では税免除の制度なども設けられています。不安があれば中小企業庁が策定するガイドラインやマニュアルに立ち返るのもよいでしょう。

事業承継も大切な問題ですが、経営者には目の前の事業と従業員を率いていくという大切な役割があります。経営に支障をきたすほどの悩みを抱えないように、早めの対策と良い相談相手を見つけておくことを心がけましょう。

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